神々の旗印85



 勇斗は絶叫した。この場面にして通信関連が使えないなどと、とても予測される状況ではない。

「マ、マーキュリー! もう一度……いや、何度でも試してみてよ! そうじゃないと俺たち……!!」

「モウ! ココデうろたえないで下さいマシ、クロヅカ二等兵!! マダ、この状況が敵ニよるものなのか、故障によるものなのか決まっタわけではナイデスワ! ソレニ……」

「それに?」

「ソレニ、対象ハまだ何も仕掛けて来てはおりまセンワ。モシ、ここであの対象にこちら側の動揺をキャッチでもされて御覧なサイ! それこそ相手側の思う壺デスワ!」

「わ、分かった! それならば何か対策を考えよう。……えーと」

「モウ! そんないきなり悠長に首をひねってどうスルノデス! ココハ、前方に位置スル早雲上等兵とマドセード軍曹ニ追いつくことが先決デス!」

「な、なるほど……」

 二人は、このただならぬ雰囲気をいかにして打破するのかで目一杯だった。それだけに、前方に位置する僚機の影を見誤っていた。

「オカシイデスワ……。いくらアタクシが機体速度を上げても、前方のお二方の機体に追いつけナイ……」

「な、なんだって!?」

「一応、後尾からの対象に気付かれナイ程度に速度を上げているのデスガ、前方に追いつくどころか、かえって置いて行かれてイマスワ……」

「ど、どういうことなんだよ、それ!? 確か、こういう事態に陥った時には、前方に位置する機体はその状態に気づくために僚機を置いてきぼりにしないのが小隊を組む鉄則じゃないか!?」

「エ、エエ……。デモ、そんなことアタクシに仰られテモ……」

 このヴェルデムンドという独特の森の中では、無線や三次元ネットワークが途切れてしまうのは珍しいことではない。いくら科学が発達したこの時代にあっても、過酷な条件下では何の役にも立たないハイテクノロジー機器が多数ある。そんな時の為に、古来からの取り決めやコミュニケーション方法が欠かせないのだ。

 だが、この瞬間、そんなアナログなコミュニケーションが成立していない。この小隊長が全ネイチャーを象徴するあの男の指揮下であるにもかかわらずに。

「おかしい……、何かおかしくないか? マーキュリー……」

「ソ、ソウデスワネ……。何か雰囲気が変デスワ……」

 彼らは察知していた。この今の状況がただならぬ雰囲気であることに。彼らにとっての常識外の事態がが迫りつつあることに――。


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