神々の旗印84



「良いのカイ? と言うと、何なのカシラ?」

「だからあ、こんな俺みたいなパイロット相手で良いのかいって聞いているんだよ!?」

「何ヲ仰ってイルのデスカ? クロヅカ二等兵。さっぱりアナタノ言っている言葉の意味が分からなくてヨ? 前にも言った通り、ソレはソレ、騎士様は騎士様、アナタはアナタデス! もっと自分に自信を持ちナサイナ!! どう比べテモ今のアナタでは、騎士様と雲泥の差であることはタシカダワ! そんなことが分かっているなら、他人と比べる前ニ自分をどうにか鍛え上げるのが先ではナクテ?」

 またもや自分よりも年端もいかぬ人工知能にたしなめられる勇斗である。

「あ、いや……それはそうだけど……」

 そんなやり取りの最中である――

「アラ? 変ネ……。どうやら四時の方向ニ、未確認の移動スル人工物を確認シタワ。クロヅカ二等兵、スコープで最大望遠するから、ご自身でも視認をヨロシク」

 人工知能マーキュリーのレーダーセンサーに、赤く光る点滅サインが灯っていた。勇斗はまだ煮え切らない表情で彼女に食いつきたそうだったが、渋々モニターを最大望遠にして覗いた。

 だが、その対象物体はこの木々に包まれた森の中ではハッキリとは確認できなかった。しかし、何らかの機影らしきものであることだけは何となく分かる。

「ここからの距離じゃ、うすぼんやりにしか見えないな」

「ソウネ、アタクシの照合センサーにも確認出来なくてヨ」

 彼らの駆るフェイズウォーカーは、この密集したヴェルデムンド特有の森の中を進軍するのに最適な巡航速度を保っている。その巡航速度に対して、四時の方角から後方を付いて来る人工物は、少々彼らの機体より速めであるようだ。

「だけど、この対象が、俺たちの小隊と一定の間隔を保ちながら追尾して来ているのは確かだ……」

「デスワネ……。ということハ……」

「ああ、ということは間違いなく対象はこちら側を意識していることは確かだね。そして、わざと視認もデータ照合も出来ない距離を保っているとも言える。それが、敵か味方かは分からないけれどね……」

「デハ、もし味方ダッタとシタラ……?」

「そう、もし味方だったとして、何らかの理由で後を追っかけて来たならば、誤射を防ぐためにそんなことしない! ということは、やっぱり敵……!?」

「ダッタラ、早く少佐に報告しないとイケマセンワ!?」

 この瞬間、二人の間に何とも言えない緊張が走った。とうとうこの瞬間がやって来たのだ、と勇斗は喉の奥を鳴らした。

「ク、クロヅカ二等兵! 焦りは禁物デス。先ずは先行スル僚機に正確な現状を報告。そして当方は警戒態勢をとりつつ、未確認人工物の特定を急ぎまショウ!」

「分かった! じゃあ、マーキュリーは、少佐を始めとした全僚機に現状を報告する役をやってくれ! 俺はいつでも攻撃が来ても良いように第一戦闘準備に入るから! 進行速度はそのままでな。相手にこちら側のキャッチを気づかせないためにも!」

「宜しくてヨ、クロヅカ二等兵。進行速度オーケー! タッタ今、僚機にデータ通信を行いマス!」

 二人のやり取りは実に滑らかであった。勇斗は実戦経験こそ少ないが、こういう時の訓練はセシル・セウウェルに嫌というほど叩き込まれている。どうやらそんな勇斗を、人工知能マーキュリーも少しずつ受け入れてきたようだ。しかし……

「タ、大変ダワ、クロヅカ二等兵! 通信ガ、少佐たちとの無線連絡もデータ連絡も取れないワ!!」

「な、なんだって!?」




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