神々の旗印62


 勇斗は、あまりの緊張に喉をゴクリと鳴らした。彼はまだ、生きている人間に対して武器を扱った経験が無い。いや、それだけではなく、目の前の上官を傷付けでもしたら、自分の立場はどうなってしまうのだろうと、その理由の方が心配なのだ。

「ほら、早くしろよ勇斗! 何でお前が怖気づいてんだよ!!」

 どうにも目の前の伝説の兵士は本気のようだ。彼の言葉尻から、真剣味と苛立ちがひしひしと伝わって来る。このまま考えあぐねて時間を引き延ばそうものなら、彼の手持ちのソードで切り掛かって来られそうな雰囲気だ。

(きっと怒らすと怖いんだろうなあ、あの人……。見た目は結構優しそうに見えるけど、性格はいかにも獰猛な野獣だってもっぱらの噂だし……。ええい、こうなったら撃つしかないよな! どうなっても知らないからな!!)

 勇斗は、フェイズワーカーの片方の腕の手のひらに空き缶を山ほど乗せた。そして、もう片方の手でOKリングを作る。

(こんな物は、はじき出す要領で撃ち出せば良いんだ。どうせ少佐だって、それを期待しているんだ。だけど、こんなやり方をすれば……)

 そう、こんなやり方をすれば、間違いなく放たれた空き缶は凄まじい勢いで発射される。ゆえに、体に直撃でもすれば、並大抵の人間ならばちょっとやそっとの怪我では済まなくなる。相手がネイチャーなら猶更なおさらのことだ。勇斗はそれを危惧する余り、この瞬間をどうしても臆してしまうのだ。

 だが、目の前の男の表情は、より一層険しさをを増すばかり。まるで鬼の形相に見える。

(あ、あれは集中してなった表情じゃないよ……。なかなか行動に移すことの出来ない俺に対して怒ってる表情だ。こ、これはヤバい……)

 勇斗は奥歯を噛み締めた。もう考えている余裕なんてどこにもない。彼は、

「もうどうにでもなれ!!」

 と、半ばヤケクソな思いでレバーを引いた。その瞬間、フェイズワーカーの手のひらに乗せられた空き缶が、まるでマシンガンのように機械の指に弾き出される!!

 しかし次の瞬間、勇斗はとんでもないものを目撃してしまった!!


 

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