神々の旗印㊴


 しかし、そんな正太郎の焦りを他所よそに、ジェリー・アトキンスの姿をした勇斗は、未だ死体の山の恐怖に打ち震えたまま動こうとはしない。

「おい、ジェリー!! 若僧!! 早くコイツにとどめを刺せ!! 早くだ!! そうしねえと、またコイツが動き出しちまう!!」

 イーアンの苦痛の雄叫びが、各通信機を通して訓練所中に木霊する。彼の羽交い絞めにした機体の腕が、肩の部分からギリギリと今にももぎれそうである。そこに、

「イーアン!! 今、マドセードとエセンシスには、自分たちの機体を取りに行かせた。アイツらは無事だ! それまで何とか持ち堪えられるか!?」

 と、正太郎からの無線が入る。

「グッ……!! それより背骨折り、アンタの機体は!?」

「それが、あんの烈太郎の野郎、急に腹の調子が悪いだとか言い出しちまってな……!!」

「フフッ、そ、そうか……道理でな。アンタにしちゃあ、やけに出番が遅いと思ったぜ。まあ、昔から、あのお坊ちゃまマシンは人間染みていてしょうがねえ野郎だったからな……!!」

「す、すまねえ、イーアン。俺の管理ミスだ」

「なあに、良いってことよ。背骨折りには昔から散々世話になった。今さらこれしきのこと……」

「おい、イーアン!! テメエ、何縁起でもねえこと言ってやがる!! もう少しだ、もう少し耐えてくれ! そうすれば……!!」

「いいや、この機体は、もう数分も待てねえ。アンタから見ても分かる通り、リーチでドボン寸前の状態だ……」

「いや、待つんだ! そして俺たちを信じろ!!」

「ああ、いつも信じてるよ、アンタの事は。だから、俺は背骨折り……アンタがこの状況だったらどうするかって事を、今考えていた……」

「ば、馬鹿ッ!! よせ!! そんなことをお前がしたら……!!」

「フフッ、いつもアンタは言ってたよな。俺たち戦士に必要なのは、相手のその上を行く創造力だってな……!!」

「おい、イーアン!! 待て!! 待つんだ!! これは命令だ!!」

 正太郎が、通信マイクに必死に呼び掛けるが、そこでイーアンからの返事が途切れた。イーアンが自ら回線を切ったのだ。

 そして正太郎が、再び烈太郎の頭までよじ登り、胸の双眼鏡で訓練場の中心部を確認するや、

「イーアン!! テメエ!!」

 と雄叫びを上げた。なぜなら、あのごま塩髭のイーアンが、機体を羽交い絞めにさせたまま、自らコックピットから飛び出し、生身の身体で朱塗りのフェイズウォーカーに飛び乗ろうとしていたからだ。

「イーアン、無理だ!! よせぇーっ!!」





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