神々の旗印㊱


 イーアンは、機体を左右に横滑りさせ、全速力で体当たりを仕掛けた。無論、そんなことをしても辺り構わず放たれた弾丸を全てけ切ることは出来ない。相当腕の立つ彼だが、それでも肩のジョイント部分をかすめ取られ、脚部に装着してあるエアスラスターホバーに直撃を食らわされてしまった。

「ぬ、ぬおおおおーっ!!」

 しかし、そこでひるんでしまえば敵の思う壺。一瞬でも動きを止めてしまえば狙い撃ちされるのも止むを得ぬだろう。

 そこでイーアンは、ホバーの利かなくなった右足を地面に押し付け、左足のみの推力を全開にし、

「そこだぁー!!」

 と、大声を上げて機体を独楽こまのように回転させながら朱塗りのフェイズウォーカーに取り付いた。

「や、やったか……!?」

 だかしかし、そこは悲しいかな、所詮彼の搭乗している機体はフェイズワーカーと言ったところか。パワーも段違いであれば、機体性能も戦闘仕様ではない。イーアンの機体は、朱塗りのフェイズウォーカーを真正面から羽交い締めにしたものの、いとも簡単に両腕の前腕部をバリバリと音を立てて折られてしまう。

 だが、

「ま、まだよ、まだだあーっ!!」

 イーアンは両方の前腕部を失いながらも、スラスターの利く左足のホバーを再び全開にし、それを朱塗りのフェイズウォーカーの股間を股潜りして機体の背面部にすり抜けてみせる。そして、

「この俺様が、貴様ごときに遅れをとるものかよ!!」

 と言葉を放った途端、今度は正真正銘背後部から朱塗りのフェイズウォーカーを羽交い絞めにしてしまった。

 流石は羽間正太郎にも引けをとらぬと言われているイーアン・アルジョルジュの格闘技術である。そのセンスは並みのパイロットなど一切寄せ付けない。だが、

「は、早く!! 早くコイツにとどめを刺せえ!! 若僧!! ジェリー・アトキンス!!」

 イーアンは叫んだ。どうしても彼の搭乗するフェイズワーカーではこれまでが限界なのだ。

「さ、さあ、ジェリー! どうしたジェリー・アトキンス!! 次の一手はテメエの番だ!!」

 イーアンは必死に彼を呼ぶ。しかし、

「あ……あああ……」

 ジェリー・アトキンスの姿をした勇斗は、辺り一帯に転がっている無残な死体の山を目の当たりにし、途轍もないパニックに陥っていた。



 

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