虹色の人類135

 


 列太郎は言うや、そっと正太郎のそばに近寄り、

「兄貴……、エナちゃんは……?」

 と、自分のホログラムアバターを差し向ける。

 すると正太郎は、

「ああ、たった今旅立ったさ。 彼女の新しい出会いに向けてな……」

 と、烈太郎に一切顔を向けずに言葉を放つのである。そんな彼の態度に、烈太郎もどうして良いのか分からなくなり、

「あ、あ、あのね、兄貴……。兄貴がこの辺りに居るって教えてくれたの、エナちゃんなんだ」

 と、とりあえず言葉を投げ掛けた。

「だろうな……」

 正太郎はそう言って押し黙ってしまった。

 いくら烈太郎が人工知能とは言えど、この状況がとても辛い雰囲気である事は理解できている。死の概念を持たない彼らにとって、この別れが永遠でないのだから。

 しかし、烈太郎のこのホログラムのアバターを実装してくれたのはエナである。そのエナが、どんなに彼の記憶アーカイブの中でデータとして生き続けていたとしても、今後こういった物理的実証を残してくれることはないのだ。つまり、人工知能烈太郎にとっても、これが本当のお別れであることを理解せずにはいられないということなのだ。

「ね、ねえ、兄貴? これからオイラたち、どうするの? オイラ、さっきまでエナちゃんと一緒だったから、色々と事情を聴いたんだ。エナちゃんは、そのペルゼデールとか言う謎の変な人に命を狙われて、こんな風になっちゃったんだよね? 散々良いように利用された挙げ句に……」

「あ、ああ……、烈。それはその通りだ。彼女はな、あの五年前のアンナと同じように、そのペルゼデールとか言う厄介な野郎の手のひらの上で踊らされていたんだ。そしてその挙げ句に、自分の幸せも何もかも投げ打って俺に何かを伝えようとしたんだ」

「な、何かって? 何?」

「ああ、それが今はこの俺にも解からねえ。だがな、これは俺の憶測でしかねえが、多分、彼女らもそれが何かは理解できていなかったんじゃねえのかと思う。しかしな、烈。俺たち人間てえ生き物はよ。そうやって一人一人が理解出来ていなくっても、どこかで通じ合って理解を深めることが出来る生き物なんだ。そして彼女らは、その役目を俺に託して行ったというわけさ……」

 烈太郎はその時、それが、エナ・リックバルトの言っていた〝インターフェーサー〟という役割であるということを悟った。それが、羽間正太郎という類まれな人物が背負い込んだ運命である事を。

「ああ……。だから俺は、どうしても彼女たちの期待に応えなくちゃならねえのさ。それがエナの言う通り、この俺がこの世に生まれ出てきた本当の役目なんだと言うならばな……」

「……ということは、兄貴。もしかしてもしかすると……?」

「そうだ、烈よ。俺は……、いや、俺たちは、あのペルゼデールとか言う偏屈野郎が、本当に何をしようとしているのか知らなくちゃならねえ。そして、何でそうするのかも知らなくちゃならねえんだ」

「うん、そうだね、兄貴。そして、ペルゼデールの正体もね」


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