虹色の人類125


 それは正に悪夢の光景である。

 どんなにグロテスクな生き物が潰されていようとも、余りにもあべこべで荒唐無稽なのだ。一見してか弱そうで可憐な少女が傍若無人の限りを尽くし、一見して害獣のように感じられる気色の悪い手足だけの生き物が、全く成す術もないまま潰されまくっているのである。

 こんな光景を目の当たりにして、流石の正太郎とて、やれ戦略だのやれ戦闘だのと、とても気が回らなくなってしまう。

 この瞬間、この空間は常識が常識でなくなっていた――。

 今まであった物理法則など無視し、今まさに起きている事象が正太郎の既成概念を狂わせているのだ。

「これがまさか……、エナの言っていた他の〝宇宙〟が創り出した新しい概念の影響とでも言うのか……!?」

 正太郎は、即座にエナを見やる。すると、なんと、今まで光に包まれていたエナの体がどこにもいない。

「エ、エナ……!?」

 いや、そればかりか、先ほどまでひしひしと感じられていた敵方の刺客の殺気までもが、この坑道内から消え失せている。

「そうか、奴め……、この機に乗じて体制を立て直しに行きやがったな……」

 どうやらプログラムの移送の完了してしまったエナを確認して、敵刺客は一旦姿をくらましたらしい。それを鑑みるに、やはり狙いはエナの命だったのだと思われる。

 敵刺客の正体がどうであれ、敵方はエナの存在を消したくて仕方がないらしい。そして、エナの姿が見当たらなくなったのは、間違いなくこの奥にある複数の〝宇宙〟を管理するシステムに肉体ごと移送されたのだと考えてよい。

(それにしても、ジェリーとあの出鱈目な女の子は一体何だってんだ……? なぜ、こんな場所に奴らが……)

 正太郎が何とか冷静な心持ちを取り戻した、その時である。




 

 

 

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