虹色の人類99


 しかし、彼はどうあっても今のエナに指一本も触れさせたくはない。例えそれが、あの黄金の円月輪をも超える恐ろしい刺客であったとしても。どんなに獰猛で卑劣な刺客であったとしても。その有無や是非がどんな形を描いていようとも、これを絶対にやり遂げなければならないのだ。

 正太郎は意を決し、奥歯を噛み締めるや否や、狭い袋小路から勢いよく飛び出した。無論、それはエナの身体から敵方の目を逸らす目的の為である。彼は、自らの身を投げ打ってでも彼女の思いを完遂させたかったのだ。

 そして、拾い上げたレーザーナイフを片っ端から光らせて行き、両手目一杯に扇状の形で広げ持つと、

「さあ、こっちに掛かって来やがれ! この唐変木野郎!! テメェみてえな根暗野郎は、この俺が今ここで相手してやる! それとも何か? テメェは、無防備な女子供に狙い付けるだけが取り柄なのか!? 本気でテメェの強さを証明したいってんなら、この俺を倒してからにしろ!! そんなドメスティックな小心者野郎は、おととい掛かって来やがれ!! それとも何か? テメェが股間に風鈴みてえな無駄飾りぶら下げているだけのへなちょこ野郎だって言うんなら、それも甘んじて受け入れてやってもいいんだがな!! なあ? 陰からこそこそ窺ってばかりのボンクラ敵さんよう!! こちとら、もうこうなったら逃げも隠れもしやしねえぜ!!」

 正太郎は、腹の底から声を張り上げて言い切った。

 全てはエナの為。彼女の身体に被害が及ばぬようにと、自らに敵方の注視を浴びせさせるようにと相手を煽っているのだ。

 無論、正太郎は、相手方がこのような挑発に単純に乗るようなタマではないことを心得ている。しかし、これは敵方の刺客の器量を知った上での行動なのだ。

 なぜなら、敵方の刺客が、少しでも余裕とプライドがある人物なのだとすれば、この煽り立てにどんな意味を持つものかが理解出来るはずだからだ。

 言わば、そういった見え透いた挑発の言葉を掛けることに因って、相手の性格や器量というものがどれだけのものかを計り知れるということだ。

(もし、この挑発に何の反応もなければ、奴はただの下等なマシーンに過ぎない……。しかし、逆の反応をするのだとしたら、それは……)

 

  

 

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