虹色の人類98


 

 しかも、そのナイフの攻撃は留まる事を知らず、意識プログラム移行中のエナの肉体にまでナイフが及ぼうとする。

「エナッ……!!」

 正太郎は叫ぶや素早く反応し、ホルスターからM8000を引き抜いて間髪入れず連続で引き金を引く。

 パンパンパンと銃声が軽やかに響くとともに、数本の光の筋はことごとくエナの肉体の直前で弾かれ、カラカラと音を立てて地上に落下する。

「チッ、クソッタレ! 今ここでエナの肉体に何かが及べば全てが水の泡になっちまう!!」

 いくらエクスブーストを使用していても、これまであったように過剰電圧の嵐が巻き起こっているわけではない。その為、直接攻撃に対するバリアの役目が果たせているわけではない。

 であるがゆえ、もしここでエナ本体に支障を来たしてしまえば、彼女の意識プログラムの移行は完結されず、永久に彼女自身が崩壊を迎える。簡潔に述べれば、正しくそれはエナ・リックバルトの死を意味する。

「こ、こいつはよ……!? それほどまでにエナをあの世に葬りたいってわけか!?」

 正太郎は、残弾の空になった自動拳銃クーガーを腰のホルスターに収めると、床上に散らばるレーザーナイフを拾い集め、刺客が放ってきた方向を見やり身構える。

 ここが三方向に囲まれた袋小路の場所であるにもかかわらず、ここまで正確に手練の技を繰り広げて来るとは見上げた腕前に他ならない。がしかし、であるがゆえにその逆を鑑みれば、相手の投擲を示すポイントも自ずと見えて来る。

「しかし、何ともとんでもねえ輩だ……。ここまで狭まった射角だってのによ、あれだけ見事な攻撃を仕掛けて来やがるんだからな。一体、相手はどんだけ訓練された化け物なんだよ……!?」

 言葉を放つと同時に、彼の背筋に冷たいものが走る。この投擲技術は、今まで出会ったどの刺客よりも正確かつ無駄がない。

 その冷え切ったまでの精密性は、あのアヴェル・アルサンダール率いる黄金の円月輪と比較しても勝るとも劣らない芸当である。

 

 

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