虹色の人類96
エナは、もう十分に覚悟を決めた様子だった。きっと、これも虹色の人類の分身たちで体験したが故の死への帰結なのだろう。彼女には、肉体との離別がそれほどまでに感傷的な事象ではなくなってしまっているのだ。だが、
「ねえ……ショウタロウ……ハザマ……」
「何だ?」
正太郎は、エナの体をゆっくり引き起こそうとすると、
「ううん……なんでもない……」
エナは奥歯に物が挟まった言い様でそっぽを向く。
「なあエナ。お前も知っての通り、補助脳に一旦これを添加しちまえば、もう後戻りは出来ねえ。それでもいいんだな?」
彼女は、正太郎の言葉にゆっくり目を閉じコクンと頷いた。
しかし、心なしか彼女の体は震えている。それはこれから未体験の世界へと誘われる恐怖とった感じでなはい。さりとて、重症を負った傷口からの痛みから来る震えでもない。その時正太郎が彼女から感じ取ったものは、言葉に表すことの出来ぬ何とも言い様のない一抹の寂しさめいたものであった。
正太郎は、彼女を抱きかかえながら横向けに押しやると、首筋の下の部分を露出させた。
「さあエナ、準備は出来た。ロックを解除してくれ……」
「うん……」
彼女は力ない返事をするや、うなじの辺りにある補助脳に直接つながるプラグインターフェースを露わにする。
正太郎は、先程拾ったエクスブーストのアンプルをジャケットから取り出すと、そこに押し当て、
「やるぞ。準備はいいな?」
「ええ……、お願いします……」
エナは、小刻みに震えている。
「怖いのか?」
「うん……」
正太郎は思わず彼女の体を抱き寄せた。そして眩いばかりの髪を撫で上げると、彼女の小さなおでこにそっとキスをする。
「大丈夫だ、安心しろ。俺はお前を忘れはしない」
と、そう言ってアンプルを突き刺した。
エナはその瞬間、
「ありがとう……」
と、小さな声で言葉を言い放った。すると、いきなり彼女の体が眩いばかりの光に包まれ宙に浮きあがった。
「エ、エナ……!?」
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