虹色の人類97


 彼女の全身が青白い光で発光し始めると、いかな正太郎であっても、この激しい電流に吸い寄せられまいと手を離さなければならない。

 エナはこちら側を向き、パクパクと小さく口を動かし何か言葉を放っているように見える。がしかし、電流から放たれる激しい炸裂音によって、それが何であるかなど聞き取れるはずもない。

「エ、エナ……!!」

 エナは必死に指先を伸ばして来る。だが、彼女の体は瞬く間に二メートル、三メートルと徐々に浮上する。さらに、彼女の体は正太郎の手の届かない高さまでゆったりと昇り詰め、それが彼女の表情の見納めとなった。

 やがてその放電の光が辺りの空間に飽和状態を引き起こすと、坑道内の壁伝いに張り巡らされたケーブル類や電子回路といった部分に繋がって行く。

 正太郎は、その光景を目の当たりにするや、

「これで、エナの命がどんどん吸われて行くんだな……」

 と感じざるを得ない。

 確かにこれが最良の策だということは理屈では理解している。しかし、本来の肉体を離れ、本人が持つアイデンティティさえ違ってしまったのなら、それは一体誰なのだと言えるのであろうか。

 正太郎が、このエクスブーストの煌めきに相見あいまみえるのは、もうこれで三度目の事である。しかし、それを目の当たりにするたびに、何とも言えなく胸の辺りが苦しくなって来る。

 彼は苦虫を噛み潰した表情でその状況を見つめていた。その時――、

「うっ……!!」

 彼の背後から、鋭利な白光が飛び込んで来たのであった。何とそれは、先ほどまで彼らの命を狙って来たレーザーナイフの光である。

 刺客は、正太郎の一瞬の心の隙を突いたと見えて、無防備だった死角からそれを放ってきた。

 しかも、今回はここぞとばかりに連続でナイフを放ってくる。一本、二本、三本……その放たれたナイフは数知れず!!

 それはまるで、日本古来の忍者の類いから放たれる手裏剣のように正確であり、恐ろしく素早い投擲とうてきである。

 これでは流石の正太郎でも容易にけられるものではなかった。思わず息を吸い、息を飲む間のないその一瞬のやり取りの合間に、彼の衣服の至るところが大きく引き裂かれ、至るところから音を立てる様に真っ赤なものが噴出する。

(し、しまった……!!)

 彼から思わず悔恨の言葉が漏れる。が、しかし、そんな言葉を吐いたところでどうにもなるものではない。何と言っても敵方の刺客は、正太郎に引けを取らぬほどの手練れの策士なのだ。手練れの暗殺者なのだ!





 

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