虹色の人類80

「ああ、あたしの宇宙が……!!」

 エナの分身たちは一斉に絶叫する。

 それと同時に、その光る球は全く音を伴わない超爆発を起こした。その凄まじさは薄暗い坑道内を一気に白昼の太陽の光の中へ引き込むぐらいの迫力があった。

「うおぉぉぉ!!」

 刹那、正太郎の身体はまともに光の放射に晒された。丁度エナの分身たちに向かっていたためか、光の球に背を向けていた彼は、その光の放射を直接目にすることはなかった。だが、その超爆発により圧倒的な力が彼の身体の中を通り抜けて行った。

 そして、類に漏れずそこにいたエナの分身たちも光の放射に晒されたのである。彼女たちはまともに真正面からその光の照射を浴び、目を瞑る暇もなくその光景を目の当たりにしてしまう。その瞬間、彼女らの身体は玉虫色の元の身体へとリロードされ、有無も言わされないままドロドロと溶解して行く。

 その超爆発は時間にして三十秒間ほど続いた。正太郎は成す術もなくただ光の放射に背を向けたまま茫然とエナの分身たちのとろけてゆく様を見届けていた。

 やがて光の放射の力が止み、そこに視覚的な静寂が戻って来るや否や、

「なんだったんだ、これは……!?」

 正太郎は呆気にとられた表情のままホッと溜息をついた。

 正直言って、まだ体の震えが止まらない。この成す術もない恐怖に似た感覚は、あのエクスブーストの暴走の比などではない。何と言ったらよいのだろう。あの物理的な痛みをも超えた恐怖以上の物とでも表現すれば良いのか。余りにも力が圧倒的過ぎて言葉にすら出来ないほど一瞬の出来事だったのだ。

 にもかかわらず、彼の身体にはまったくの欠損も見られなかった。否、外傷すら見られなかった。ただその場所にあるのは彼の身体のみ。あとは、玉虫色の残骸と化したエナの分身たちの跡形もない姿だけなのだ。そして、彼の身長ほどもあった真球の欠片が辺りに細々と散乱しているだけであった。

 

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