虹色の人類77
正太郎は言いつつ、よく辺りを見渡した。こういった窮地に追い込まれた時は、必ずやらねばならないことがある。それは確実に現在の状況を確認することだ。
窮地に追い詰められているということは、必然的に精神がひっ迫していることを示している。精神がひっ迫しているということは、自ずと視界も狭まり、聴覚も嗅覚もその他のあらゆる感覚もそれぞれ通常より機能が果たせていないことを示している。
かつて、彼の師、ゲネック・アルサンダールはこう言った。
「よいか、羽間正太郎。そういった四面楚歌になった時こそお主の力の見せどころなのだ。お主は普段から無意識に力の出し惜しみをしてしまう悪い癖がある。だが、この弱肉強食の地平においては、そのままでは生きて行けぬ。精進するがよい」
まだ彼が、戦乱の前に厳しい鍛錬を受けていた頃の話だ。
「そうだぜ、おやっさん。おやっさんは、あの頃、右も左も分からねえこの俺に色々教えてくれたっけな」
正太郎は今現在、全くと言ってよいほど孤独を感じていない。そして焦りも感じていない。なぜなら、彼にはこれまで出会って来た人々との信頼関係が成立しているからだ。彼はそんな精神的な後ろ盾によって、これからのやるべきことを直感的かつ冷静に見つめることが出来ていた。
「そうだよ、おやっさん。アンタは、こういった時ほど一旦間を置いた方が良いって言ってたっけな。どのみち焦ったって時間の使いどころはあまり変わらねえからな。それなら肉体から落ち着けた方が得策と言うわけだ」
正太郎はそう言って背筋をピンと伸ばし、目を軽く瞑ってから深く息を吸い込んだ。こうすると、余分な情報が遮断されるとともに一掃されてゆくのが分かる。それゆえ、今まで見えて来なかった情報がすんなりと見えて来るのである。
すると、
「むっ、あれは……!?」
薄目を開けた状態で呼吸を整えていると、かなり薄暗い坑道の中に、一つの点のような光が飛び込んで来た。当然、先ほどまでの正太郎には見えていなかった光景だった。
彼は、その光る点のようなものにゆっくりと焦点を合わせ行く。
その時である――、
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