虹色の人類75


 エクスブースト。それは、彼が五年前の戦乱で使用した禁断の化合物である。

 このコバルトブルーに煌めく特殊化合物は、ゲッスンライトと呼ばれる希少鉱物を液体に加工した代物である。

 これをひとたび電子回路に添加すると、たちまち電力の過剰過給状態を引き起こす。そしてその効果は凄まじく、稲妻の竜が大暴れするほどに制御不能の大放電が巻き起こるのである。

 彼はこのエクスブーストによって二度も命を助けられた。が、その反面、二度も生命の危機に晒された。

 ここまで電子機器が発達した現代において、このエクスブースト一つあるだけで途轍もない脅威を引き起こす。

「まさか、こんなところでエクスブーストにお目に掛かるとは思っても見なかったぜ。しかし、なぜこんな場所にエクスブーストが……」

 彼は何とも憮然な表情でそれを見つめた。

 このエクスブーストという危険な物質は、彼がヴェルデムンド新政府管轄のゲッスンの谷に潜入した際、そこの軍事施設で働くアンナ・ヴィジットという研究者によって秘密裏に開発されたものだ。

 しかし、アンナ・ヴィジットは自らの意思で電磁竜の暴走に巻き込まれ、全身至るところに深い傷を負ってしまった。そして見るも無残な瀕死状態にまで陥ってしまったのだ。

 凄まじい数の機械兵士に追われていた正太郎は、そんな彼女を仕方なく置き去りにし、彼女の遺言とも取れる叱咤激励に見事応えて難攻不落のゲッスンの谷を開放して見せたのだ。

「だが、この生成方法は、開発者のアンナしか知り得なかったはずだ。なのに、なんで今ここにこんなものが転がっているんだ!? ま、まさか……、アンナが生きているとでも言うのか!?」




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る