虹色の人類72


 ※※※


「いかが致しましたか? 大膳様……」

 鳴子沢大膳は、女王マリダとの謁見の最中、何か物憂げで心ここに非ずと言った具合が滲み出ていたようである。彼は唐突に、次の式典の打合せの腰を折られた。

 それもその筈である。あの虹色の人類が変容を遂げた自らの分身に、ああも言われてしまっては平常心でいられる筈がない。

「い、いえ、何でも御座いません、陛下。ちと、ここのところの疲れが溜まっていたようで……。どうやら私も年を取り過ぎました」

「そうですか……。大膳様におかれましては、少々どころか大変な激務であることがうかがわれます。差し出がましいことを申し上げますが、少し周りの方にお仕事をお任せしてみてはいかがでしょうか? 先ほど、大膳様がこの謁見の間にお出でになられた時から、通常よりバイタルサインの数値が乱れておいでですゆえ……」

「は、はあ……、全くをもって陛下には敵いませぬな。しかし、この国の体制は、中央の管理システムによって仕事の分配効率も最適化されておる状態です。私には私にとっての最適な役目を授かっておる状態なのです。ですから、陛下の仰られるような問題など全く御座いません」

「し、しかし……」

「い、いえ、陛下。今やこの国のシステムは、以前のダーナフロイズンのような、まやかしの存在などでは御座いません。れっきとした事実の存在として稼働しておるのです。陛下もご存じかとは思いますが、この国の中央システムに名前が冠されていないのは、いつぞやの失敗を繰り返さないためにあるのです」

「ええ、存じております。それは、大型人工知能の反乱を恐れてのことでございますね」

「その通りです。まあ、失礼ながら陛下のようなお方であれば、こちらとしても心配などしておりませんが、どうも巨大な人工知能ともなると、片っ端から人々やアンドロイドを扇動してしまう悪い癖が出てしまうゆえ……」

「ええ……。先の戦乱の最中でも、あの方のご活躍がなければ、被害は目も当てられぬほど甚大になってしまっていたであろうと伺っております。しかし、その問題となったグリゴリと申す大型人工知能の行く末は、未だ有耶無耶になってしまっているとか……?」

「え、ええ……、陛下の仰る通りでございます。あの男……いや、あのゲッスンの谷の一件は、例の羽間君の無理無謀とも言える作戦のお陰で、結果的に新政府軍と反政府軍との橋渡しが行われる切っ掛けとなったことは確かです。……まあ、と言うように、この国の中央システムは、全ての民に公平を期すための天秤の役割であって、名前や意思を持っていてはいけない存在なのです。このように、我々の考えられるだけの機能を有した中央システムは今のところ完璧に作動している状態なのです。それゆえに、私に与えられた仕事量も適正であると考えられます」

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