虹色の人類73

「なるほど、分かりました。ならばその言葉、わたくしも信じたいところです。そして、アンドロイドたるわたくしの心も、あなた様方に危害を加えるような存在にならなければよいと案じます」

「そ、そんな滅相もないお言葉……!! この大膳。繊細な陛下のお気持ちをもお察しすることも出来ずに、失礼なことをば申し上げてしまいました。心よりお詫び申し上げます」

「いいえ、わたくしの方こそ、大膳様の深いお考えを察することも出来ず、大変申し訳ございません。しかし大膳様……」

「はあ、何で御座りましょうか?」

「これもまた差し出がましいことを申し上げてしまいますが……。決して無理なことはなさらないで下さい。決して……」

 大膳は、またしても自らの胸の内を見透かされているような気がした。女王マリダは、間違いなく彼の異変を察知している。

「陛下……、ご心配をお掛けして申し訳ございません。ならば、ご心配ついでに、今日のところはここまでにして頂いても宜しいでしょうか?」

「はい、今回の打ち合わせに関しては、さして急ぎの案件でもありませんでしょうから……。それより、くれぐれもお体の事は……」

「ええ、承知しております。何より陛下のお心遣いに感謝いたします。では……」

 大膳はそう言って深く一礼をすると、臣下たちの見守る中、謁見の間を引き下がって行った。


 この時の大膳の頭の中には、様々な情報が数限りなく飛び込んで来ていた。無論、あの拘束衣を着た大膳が言っていた情報網によるものである。

 彼は、あの尋問の際、拘束衣側の大膳の要求に沿い、今まで遮断していた三次元ネットワークを秘密裏に接続させた。

 その瞬間、本物の大膳の脳裏には、様々な場所から様々な生の情報がひっきりなしに飛び込んで来るようになったのだ。

 拘束衣側の大膳は言った。

「この光景は、皆お前の分身が見聞きしている情報だ。今の瞬間、我々の仲間はお前の姿に変容し、特にお前の目や耳や鼻として行動を起こすことになる。どうだ? これが、我々の力なのだ」

 本物の大膳は、この事象に寒気が生じるとともに、有り得ない程の万能感と驚愕を覚えた。これが虹色の人類の力なのかと。

 虹色の人類は、自分たち人類にとっての害悪だと考え、そう信じ、これまで様ざまな事に力をつぎ込んで来た。だが、これをして体感してみる虹色の人類の力とは、こうも有用的で有益な能力を発揮するとは思わなかったのだ。

「この力は世界の隅々までよく感じ取れる。よく知ることが出来る。そして何より、私の姿をした者が命をも惜しまず命ある限り戦ってくれる。これがどうして害悪になるものであろうか。これがどうして人類を破滅に導くものであろうか。否、これは有益に他ならない。虹色の人類こそが、これからの人類の未来を切り開く渡し船になるであろう」

 大膳はこの時、大いなる人生の方向転換を図ったのだ。


  


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る