虹色の人類65

「もう遅いだと!? 何を言っている、エナ? お前の年齢としで何が遅いって言うんだ!? 俺なんか、あのヴェルデの政府が潰れちまうまでは、正真正銘の指定テロリストになっちまってたんだぞ! ほら、人間万事塞翁が馬ってよく言うじゃねえか! たった今を見るだけで自棄やけを起こすんじゃねえ! しっかりしろ!!」

 正太郎はありったけの声を張り上げた。何より彼女の胸の中まで届くように。しかしエナは、

「もうっ!! 今さらどうしてあなたはそんななの!? どうしてそんなに優しい言葉を掛けてくるの!? ねえ、どうして!? あたしは今、あなたを殺そうとしているのよ? それがどれだけ可笑しなことか分かって? もしそんなことを言うんなら、最初からあたしのことだけを見てよ! そしてこれからもあたしのことを見続けていてよ! 五年前のあの時だってそう。あたしはあなたに求めていたの。あなたのその優しさを! あなたのその包み込むような懐の大きさを! あなたとあたしは五年前の戦乱の時点で直接顔を合わせたことはなかったけれど、あなたの戦歴や戦略の仕方を見れば全てが解かったわ。あなたが他の戦略家とはまるで違うことを。あなたが類稀な過度な共感者エンパスであることを!!」

 エナはそこで言葉を切ると銃口を完全に下ろした。すると途端に坑道内に静寂が走り、今までとは違う別の張りつめた空気が漂う。彼女は続けた。

共感者エンパスは、大多数の人達と比べて極めて感受性能力が高い人たちの事を言うわ。だけど、多くの共感者エンパスは、その繊細なまでの共感能力に圧し潰されて、心を病んでしまうか閉ざしてしまう。でも、あなたは違う。そう、その繊細なまでの能力を最大限に生かしてこの弱肉強食の世界を飛び回っている。そうよ、あなたは他の人からしてみれば最大の弱点を最強の武器にしているのよ! あたしはそんなあなたに憧れたわ。そして口では言い表せないほどの興味を抱いたわ。だって、あなたは人間なんですもの。いいえ、生身の血の通った温かい人間なんですもの。どんなに素晴らしい能力を持っていたって、グリゴリは結局のところ機械だったわ。いいえ、彼はただのプログラムの集合体でしかなかったのよ!」

 

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