虹色の人類60


 しかし、ペルゼデール・ネイションの首都たるこの第三寄留に至っては、そのような噂もなければ事実でさえ情報として掴まれていない。

 その事から鑑みるに、尋問側の大膳は、拘束衣側の大膳の言っていることが偽りなのではないかという考えに達した。

「貴様、随分と長々と説明をしてくれたようだが、私にはその話を信じることは出来んな。なぜなら、今は三次元ネットワークがある時代だ。もし、そのような出来事が実際にあるのだとすれば、この私にも少なからず情報が伝わって来るはずだ」

「馬鹿な……! 貴様、本気でそのようなことを言ってるのか? どこまで貴様の目は節穴なのだ! いいか? 三次元ネットワーク上にある情報など、この世の中の一部のものに過ぎん。なぜなら、それは特定の人々からの見聞きした情報と、特定の感覚機材によって採取された一元的情報の収束でしかないからだ。言ってしまえば、今、私が説明した情報のより集めでしかないということだ。ということは、いかに三次元ネットワーク上にアップロードされた情報とて、実際に起きた出来事の断片の一パーツに過ぎん。言わば、三次元ネットワークは、この世の全て、森羅万象ではないのだ! これだから頭でっかちの言うことは……」

「ぬ、ぬうう……」

 尋問側の大膳は、その言葉に何も言い返せなかった。確かにそれは拘束衣側の大膳の言う通りなのだ。

 元々、三次元ネットワークという通信インフラが確立された理由には、どこに居ても確実な情報を共有するという大前提によるものだった。それは、今でも母世界の地球で主に利用されている既存のインターネットと何も変わらない。

 だが、この弱肉強食を絵に描いた世界〝ヴェルデムンド〟に至っては、交通手段はおろか、命のやり取りですら母世界の地球よりも急を要する。

 そして、見るもの聞くもの、さらに生きるための常識の全てが、母世界の地球とは違う。そのことから三次元ネットワークという技術が基盤として発展してきたのである。

 しかし、この三次元ネットワークというもの。これは、情報の共有という意味では既存のインターネットを情報量的にアップグレードした物に過ぎず、情報の多角化として見るためには、それを受け入れる個人の感覚や知識。そして知能や経験などを伴わなければならないのは前者と同じことと言える。

 中には、取り上げた情報を噛み砕いて説明する〝人工知能教授〟と呼ばれるサービスも存在するが、所詮は既存の知識の処理に過ぎないということなのだ。

 さらに言えば、三次元ネットワーク上にアップロードされていない情報については、勿論のことその管轄外である。取りも直さず、三次元ネットワーク上で検索したとしても、その固有の情報がアップロードされていなければ、その事象は非現実事象となってしまうのである。

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