虹色の人類52

 複製人類の方もかなり驚いている様子である。そこは嘘偽りない対応だと見てよい。瞳はこちら側一点を貫くように見つめ、息は止まり、口元を半開きにしたまま、体は硬直したように動いていない。

 ここから鑑みるに、どうやら、自分自身が虹色の人類による複製だという認識がないようなのだ。つまり、お互い自分自身が鳴子沢大膳のオリジナルだと思い込んでいるということだ。

「お前は誰なのだ? 一体なぜこのような場所に私が捕らえられなければならんのだ?」

 複製の大膳は言った。

「何故と言われてもな。貴様は我々現政府に反旗を翻し、それを暴力によって実行した。その行為は我々政府にとって許すまじ行為の何物でもない。どうだ、その理由では不服かね?」

 当の大膳も負けじと言葉を放つ。

「さっぱり分からんな。我々反乱軍は、あくまでも人間の自由の為に戦っている。それこそ貴様こそが私の姿を模して我々になりすまそうとしている機械生命体ではないのかね?」

「なんだと!? 何を言うのかと思えば、複製人類の分際で随分と笑わせてくれるではないか。貴様は私の複製なのだよ。君に私を蔑むという権利などどこにもない」

 大膳は無性に腹が立った。自分を模しただけの生き物に、偽物呼ばわりされるなど流石に腹に据えかねるものが込み上がって来ざるを得ない。

 拘束衣を着た大膳は、そんな彼を一瞥すると、

「ふふっ、どうやら君は何か勘違いしているようだな、もう一人の私よ。私は君より全てを知っている。何より君は大きな勘違いをしている。私こそが本当の鳴子沢大膳なのだ。君の方が私の複製に過ぎんのだよ」

「な、何を言うか! この下劣な複製ごときが!! 私は間違いなく私なのだ! 今まで経験してきた記憶も感覚もハッキリと残っている。貴様のような複製にそんなものはないだろう!?」

「あるさ。あるともさ。私にも今まで六十年近く培って来た様々な記憶がな! 愛する妻に先立たれてしまった悲しみも、大切な長男に先立たれてしまった悲しみも、そして数えきれない同士たちが命を投げ打って戦死してしまったこともな!」

「だから、それも私の記憶の複製なのだろう? 偽物の分際で知ったような口を利くな! そこに名を連ねた人々の悲しみは全て私の物だ! 勝手に愚弄するな!」

「何を言うか! まがい物は貴様の方だ! どこに貴様が本物だという証拠がある? どこに本物だと言える証明がある? それは全て貴様の思い込みに過ぎぬのだろう? 勝手なことを抜かすものではない!」



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