虹色の人類㊸
エナは言い切った。
どうやら彼女らの組織は、端から烈風七型の機体を手に入れたかったのだと見てよい。そうでなければ、エナ一人でこんな無理無謀な行動を起こすはずがない。それは何故なら、
「おい、エナ!? お前分かってんだろうな? いくらヒューマンチューニング手術を受けているとは言え、人間のお前が戦闘マシンごと単独で意識を乗っ取るてえことがどれだけ危険かを!?」
正太郎は問いかける。それは人間にとって、いや、彼女にとってとても重要な事だからだ。
「あら、今更あたしにそんな質問? そんなこと解かっているに決まっているでしょう。どんなにヒューマンチューニング手術を受けていたとしても、人間の能力なんてたかが知れているものね。始祖ペルゼデール様がこの世に創り給うた人間の力なんて、本来ならここにある戦闘マシンの数百分の一程度の物よ。逆に言えば、ただの人間がこんな戦闘マシンを動かそうとすると、人間である以上の数百倍の能力を開放しなければろくすっぽ動かせない。……ね? あなたの言いたいことはそういう事なのでしょう?」
エナは、正太郎の憂慮などどこ吹く風のように、全く気にする様子でもない。
「な、ならなぜだ? なぜそれを解かっていながらそう余裕をかましていられる? お前がそのまま単独でインタラクティブコネクトを実行しちまえば、やがてお前の意識に過剰な負荷が掛かって自分の身体に戻れなくなるかもしれねえんだぞ! いや、そればかりか、精神崩壊を起こして廃人になっちまう可能性だってあるんだぞ!!」
「ふふっ、そんなこと知っているわ、ショウタロウ・ハザマ。これでもあたし、一応のこと軍師ですからね。だけどね、あたしは大丈夫なの。だって……」
そのとき、彼女の声が一瞬だけ微妙に止まった。そんな状況を察するや、
「そうか、エナ! お前やっぱり、あの五年前の時点で……」
正太郎は、一度目に彼女に命を救われた時から感じていたことがあった。それは、彼女は彼女であるが、もう彼女は彼女でないという事実である。
正太郎は、五年前のゲッスンの谷の攻防戦の集結の時点で、エナ・リックバルトや、その後見人でありパートナーであった大型人工知能グリゴリの顛末に激しい疑問を感じていた。
彼は、相棒の烈太郎にその仮説を語っていた様に、大型人工知能グリゴリの意識プログラムが、相当数のミックスの補助脳の中に分散され寄生して逃れたのではないかと考えていた。
だが、その仮説が真実であるとするならば、一つだけ辻褄の合わない事象が残る。それは、エナ・リックバルトという、当時8歳にしか満たない天才少女に何の干渉もなかったという事実が不自然でしかないと言うわけである。
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