虹色の人類㊷


 これは衝撃的だった。あの漆黒に染まる下地に、真紅の不気味な紋様が施された機体。それは正しく彼の無二の相棒である烈風七型高速機動試作機――烈太郎の姿である。

 烈風七型は、他のフェイズウォーカー、クイーン・オウル三機を傍らに引きつれ、堂々とした姿を彼の目の前にさらけ出している。

 しかし、今の烈風七型は正太郎の知っているいつもの烈太郎ではない。一見して感情こそ表さないでいるが、まるで今にも戦闘を始める直前のようにピンと張りつめた意識を醸し出している。

「お、おい……烈!? どうした? どうしちまったってんだ、一体!? あれだけあの場所を離れるなと言っておいたのに……!?」

 正太郎は叫ぶが、烈風七型は一向に反応しない。刺客たちはこの隙を見て坑道の奥へと逃げ出す。だが、今の正太郎にはそんなことはどうだっていい。なぜなら、どうしてあの烈太郎が自分の前を敢然と立ち塞いでしまっているのか。どうして言いつけを守らなかったのかが問題なのだ。

 そんな時、

「ねえ聞こえる? ショウタロウ・ハザマ!! どうやら流石のあなたも大分取り乱しているみたいね」

 烈風七型に搭載された外部スピーカーから、どこかで聞き慣れた声が坑道内に発せられた。 

「ま、まさか!? この声は、エナ……エナ・リックバルトなのか!?」

 そう、正にその声の主は、彼の察した通りエナ・リックバルトの物であった。

「うふふ、良かった。ちゃんとあたしの声は認識してくれていたようね。あたしがいつもと違う姿であなたの前に現れたとしても」

「な、何!? いつも違うだと? それはどういう……」

 彼はそう疑問を投げかけつつも、突然何かを思いついたようにハッとし、ようやく彼女の言葉の意図するものを察した。

「そうよ、その表情。流石はヴェルデムンドの背骨折りとまで言われた男ね。あたしの言ったことの意味をもう理解出来ちゃうなんて。そうなの、その通り。あたし、あなたの相棒の身体を乗っ取っちゃったのよ」

「クッ……!! なんだと!? や、やはりそうなんだな、エナ!? お前、烈太郎にインタラクティブコネクトを実行したんだな!?」

 インタラクティブコネクトとは、言わずと知れた人工知能ユニット同士か、またはヒューマンチューニング手術を施された補助脳と呼ばれるユニットを埋め込まれた者同士が外部に干渉されることなくコミュニケーションを図れるシステムの事である。

 だがこの場合、エナは強制的に烈風七型の動作ユニットに意識を侵入させ、その機体の意識を司る烈太郎の意識をも休眠状態に追いやってしまったのである。

 つまり、実質上彼女は烈風七型の制御系統を乗っ取ってしまった状態にある。

「な、なぜだ? エナ・リックバルト。なぜこんな無茶なことをする!?」

 正太郎は必死で呼び掛ける。すると、

「そんなの決まっているじゃない、ショウタロウ・ハザマ。あなたとこの機体を突き放す為よ。事実上この世界での黄金コンビがあたしたちの計画には邪魔だからよ」




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