虹色の人類㊱


「だからね、あたしは知ってるのよ、ショウタロウ・ハザマのウィークポイント。つまり彼の弱点のこと」

 烈太郎はその言葉を聞いていきなり寒気がした。いや、彼は当然人工知能だから背筋に寒気など走るわけがない。しかし、それでもエナのその一言にただならぬ思惑めいた物を感じられずにはいられない。

「エ、エナちゃん! それどういうこと? だって兄貴に弱点なんか無いんだよ? オイラの尊敬する兄貴は、そこら辺にいる並みの軍師なんかじゃないんだからね! オイラにとっては完全無欠のヒーローそのものなんだからね!!」

 烈太郎は仮想実体で彼女に思いきり詰め寄ると、大仰な身振り手振りで食って掛かる。だが、

「もう、烈くんてば本当にあなたは世界最高峰の人工知能なのねえ。そんな嘘までけるなんてさ。でも、人工知能のくせに嘘を吐くなんていけない子ねえ。だって、嘘を吐くのは人間であるあたしたちの専売特許なのよ? 普通の人工知能なら出来ない芸当なんだけどなあ」

「だから!! オイラ人工知能だから嘘なんか吐いてないって! 兄貴には弱点なんか無いんだって!!」

「うふふ、そうムキになるところなんか本当に人間みたいよね。でもね、烈くん。あなたがどんなにショウタロウ・ハザマをかばったところで、事実や現実というものは変わらないわ。人工知能のあなたなら、そういった道理が理解出来ないわけがないでしょう? 今ここであなたが、あたしに嘘を吐いたところで何も変わらないの。だって、そこに事実があるだけだから。それこそ時間の無駄よ」

「何を言っているの、エナちゃん!? 急にどうしたの? さっきからおかしいよ!! エナちゃんてそんな人じゃなかったはずだよ!!」

「さあ、どうかしらね? あたしは昔からこんなあたしよ。何も変わらないわ。それより烈くん。さっきも言った通り、あたしのパートナーになってよ。いいえ、是非ともあたしのパートナーになりなさいな」

「何言ってるんだよう、嫌だよう! オイラはこの命がある限り、正太郎の兄貴の相棒なんだよう!!」

「へええ、噂にたがわないぐらい強情なのね、烈くんて。でもね、その相棒がもう二度と現れなかったらどうする?」

「え?」

「そう、その言葉通り、あなたの唯一無二の相棒であるショウタロウ・ハザマがここに帰って来なかったら、あなたは一人でどうやってその機体を維持していくつもり?」

 エナは、少女とは思えぬほどの怪しい笑みを投げかけてきた。

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