虹色の人類㉛


 正太郎はついに決意を語ったのだ。彼は、心の奥底に隠し通していた弱みを否が応でも吐き出し、そして芯が揺さぶられぬよう次なるフェイズへと移行しようとしたのだ。

 その瞬間である――

 突如、彼の背後から何かが瓦解した音が聞こえてきた。かと思いきや、数人分の統制の取れた息遣いが広がりを見せた。

「よう、早くもお出でなすったな、真実からこの俺の目を遠ざけようとするあざとい意志の塊が……」

 今まで坑道の中がシンと静まり返っていただけに、このいきり立つような殺気に満ちた気配が騒々しさを醸し出す。

 正太郎は振り向きざま、手にしたライトを殺気に満ちた方向へと差し照らした。そして、

「あんたらが何をしようと、俺ァ一切見て見ぬふりを決め込もうと思っていた。だが、これでテメェらの顔を拝んじまった限りはそうもいかねえようだな。何しろ俺ァ、死んだゲネックのおやっさんの遺言を守らなくちゃいけねえ」

 彼はそう言って左手で腰ベルトからレーザーソードを引き抜いた。無論、右手にはあらかじめ彼の愛銃であるM8000クーガーが握られている。

「待っていたぜ、この街を破壊に追いやった虫けら共め!!」




「ねえ、烈くん。あれから調子はどうかしら?」

「調子って、何のこと? エナちゃん」

 エナ・リックバルトは、烈風七型の機体に軽々しくよじ登り、コックピットのハッチを二度三度ノックした。彼女はここに入りたがっている様子だ。

 しかし烈太郎は、正太郎との苦々しいやり取りがあった手前、一応エナに対しての警戒を怠らないでいる。

「ふうん……烈くんて、結構ガードが堅いのね。こんな可愛い女の子の誘いにも乗ってこないなんて。ホント、しっかり者なんだ」 

 エナは目を見開きつつニヤついている。感覚が進化したとはいえ、烈太郎には彼女の表情が何を意味しているのか皆目見当がつかない。

「そ、そういうわけじゃないよ、エナちゃん。オイラ、かなりエナちゃんに感謝しているよ。だって、くたびれたオイラの身体をこんなにピカピカにしてくれちゃったんだからさ」

「あら、その割にはかたくななのね。あたしをコックピットに入れてくれないなんてさ。感謝してるって言うなら、今ここで誠意を見せてくれてもいいんじゃない?」

「ど、ど、ど、どうしてエナちゃんは、オイラのコックピットに入りたいの?」

「もう、決まってるでしょ? 朝方とは言え、ここはもう街中じゃないのよ? いつなんどき、獰猛な肉食系植物が襲ってくるか分からないじゃない。ならさ、あなたの中に退避させてくれるのが恩人に対しての礼儀ってものなのよ? そう、人間の感覚で言うならね」

「でも……」

「大丈夫よ、あたし虹色の人類じゃないから。自己申告でしかないけど、ほら一応ね?」

 エナは、着ている軍服の腕の部分をめくり、一部機械に入れ替えた場所を誇示して見せた。



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