虹色の人類㉒
「そうか。お前もそんな事が分かるようになってきたのか」
どうやら烈太郎は、先のヴェロンの大群との戦闘で、また新しい感覚を得たらしい。これがもし、一般的に出回っているバリバリの人工知能であったのなら、こんな人間の機微を読み取ることは出来ない。逆に言えば、余程そういった卓越した感覚を有していなければ、生身の人間ですら感じ取れないのだ。さすがに彼のこの進化は凄まじい。
「うん、オイラね。何だか兄貴といっつも一緒に居るから、勝手にそういう事が解かるようになってきたみたい」
「ああ、そうなのか。でもよ、それが全て良いこととは限らねえぜ。世の中にはよ、知らなければ幸せだってことが沢山あるからな」
「なにそれ? もしかして兄貴、それってさっきの話と何か関係があるの? エナちゃんとやり取りの……」
烈太郎は小首を傾げて見せた。彼の宙に浮いたホログラム映像は、キョトンと眼を見開いていかにも不思議そうな表情で正太郎を見つめている。正太郎は、そんな今までよりも感情を前面に出して来る烈太郎に気圧されて、
「そ、そうだよ。悪いか? て言うかお前、少し顔が近すぎやしねえか? もうちっと遠慮して話せよ。こうも近づかれると気が散ってしかたねえ」
「ああ、ごめんね、兄貴。オイラ、この姿でいられるのがとっても嬉しかったからさ、つい……」
烈太郎はホログラムであることをいいことに、なぜか舌を出して片目をつむる。いつの間にかこんな仕草まで覚えてしまっている。
「ああ、まあいいさ。でな? 烈。お前、エナに何か聞き忘れたことねえか?」
「え? 聞き忘れたこと?」
「ああ、そうだ。あのノックス・フォリーのアマゾネスにな」
「さ、さあ?」
「さあ、ってお前、よく考えろよ! とても大事なことがあんだろ!」
「大事なこと?」
「ああ、とても大事なことだ」
「なになに? 兄貴、いいから勿体ぶらないで教えてよう」
「ああ、もうしょうがねえなあ。いいか、烈? 虹色の人類の存在までご丁寧に教わったのなら、もっと知らなければならねえことがあんだろうがよ!」
「それって?」
「ムスペルヘイム最高学術専門院ご御一行の戦略内容だよ!」
「あっ!!」
烈太郎はポンと拳を叩いた。そう言われて見れば、エナ・リックバルトは一切このことについて触れていない。あれだけペチャクチャと余計な事ばかり語り合っていたにもかかわらず。
「兄貴、そ、それってもしかして……どういうこと?」
「あらら……」
正太郎は思わず前のめりにズッコケる。
だが、彼は気を取り直して烈太郎に説明調に説いた。
エナ・リックバルトは、これからが人類の正念場だと語った。だが、彼女が中心人物となっているあの一団の目的は一言も語られていない。これは余りにも不自然な事だ。と、正太郎は言うのだ。なにせ彼女は研究家である以前に稀代の戦略家なのだ。原因や要因や、それに対する憶測などが有り余るほど語られているにもかかわらず、それに対する目的や対処法のいずれも口にしていない。そればかりか、彼女は正太郎に味方になっていて欲しいと懇願しているにもかかわらず、茶を濁すような内容で誤魔化している節があった。言わば、とても大事なところだけを抜け落としている状態なのだ。
「いいか、烈? エナは、あれだけ饒舌になっておきながら一切それについて話さなかった。あえて俺は何も聞かなかったんだが、こちらから聞かなければ話さないなんて少し変だと思わねえか?」
「う、うん……、だけどさ、兄貴。もしかすると、言いそびれたって可能性だって……」
「ああ、それも考えた。だがよ、あのエナが言いそびれると思うか? あの娘は俺以上に策士だぜ? その彼女が虹色の人類という存在まで穴が開くぐれえに説明しても、それに対する自分たちの対処を語らないなんざ、とても考えられねえ」
「う、うん……」
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