虹色の人類㉓

「てえことはよ。エナは、俺たちに言えねえ何かを隠してるってことだ」

「う、うん。言われて見るとそうかもね。兄貴の言う通りそうかもしれないね……」

 烈太郎はいかにも残念そうにうなずいた。彼は人間でこそないが、人間以上にお人好しなところがある。

「お前、今度のことでエナと友達になれたとでも思ったのか?」

「いけないかい? 兄貴」

 言うと、烈太郎はしょんぼり肩を落とした。何と言っても烈太郎はまだ人間で言うところの子供のようなものである。ことさら純粋にものを考える。

 さらに製作者の多くが日本人が中心で固められていたために、その基となる意識も日本人好みのするように構成されている。ゆえに、戦闘マシン専用の人工知能として作られたのにもかかわらず、皮肉にも烈太郎は友好意識が強いのだ。

「残念だが、烈。人間はそんなに単純な生き物じゃねえ。もし、仮に、エナが俺たちに心底友好的で心底利害関係を求めない程の気の置けない奴だったとしても、その周囲に居る連中がそれを許さねえって場合がある。人は一人では生きちゃいけねえ。このヴェルデムンドという厳しい世界じゃ尚更の事だ。一度居場所を見つけちまったのなら、そこから這い出て来るにはとても勇気が要ることなんだ」

「兄貴……。子供のオイラには、兄貴の言う事はちょっと難しすぎるよ……」

 烈太郎は、正太郎に背を向けて答えた。肩を震わせながら。

 正太郎は、

(こいつ、増して人間染みて来てやがる……)

 と、そう思えた。きっと理屈では理解しているに違いない。だが、ケーススタディが不足している分、感情が付いて行けていないのだと感じた。 

 



 ※※※



 暴動を鎮静化したペルゼデール治安部隊は、鳴子沢大膳の複製を無事捕獲することに成功した。

 多少の打撲、裂傷は見られたものの生命維持的には問題ない。大膳は事を荒立てることなく〝複製大膳〟を厳重な収監室に送り、数日間の観察と尋問、そして精神鑑定などのテストを施してから自らが対面することを決意した。

「大臣。何度も進言しますが、直接対面することはお勧めできません。ですが、あなたがどうしてもそうしたいと仰るのなら私はお止め致しません。しかし、こちら側で見ていて危険だと判断した際には、この部屋に仕掛けられた遮断装置で強制的に面会を終了いたします。良いですね?」

 以前から大膳の参謀役であるエルフレッド・ゲオルグ博士は表情が硬かった。いつも冷静沈着な彼にしては珍しいことである。

「お任せしますよ、博士。それは私にとって願ったりのことです。こう見えても私は臆病そのものですからね。私にとって勇気と言う言葉など夢物語にしか捉えておりません」

 

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