虹色の人類⑦
エナは言うや、視線を研究者たちが集うモニター画面の方へと移した。するとそこには、見慣れない玉虫色をした有機物とも無機物とも判断の付かない人型の二足歩行の生物の画像が映し出されていた。
「ショウタロウ・ハザマ。この写真はね、実は二日前にあなたが殺したあたし自身の姿なのよ。……って言うか、これがあたしではないんだけど、あたしだったのよ。つまり、あなたは別のあたしを殺したの。異界から来たあたし自身をね」
正太郎は声を出さずとも、目の開き具合だけで驚きの感情を露わにした。
「まあ、異界というのは単なるたとえ話なんだけど。実のところそんなものよ。あたしたち人類とは、今まで完全に無縁だった場所から来たという意味合いからすればね。それがどういう意味を表すか、賢いあなたなら何となくもう解かっちゃったのではなくて? そう、自らがネイチャーとしてのこだわりを持って生き続けているあなたにならね」
確かに正太郎には思い当たる節があった。そう、彼が自然派……つまり、ネイチャーと言われる一人の存在として生き延び続けるには、とある目的があった。
彼が考えるに、生物が社会集団として少しでも長く生き永らえるには、あらゆる分岐が必要なのだいうことだ。そして、その社会集団自体も、ある一定割合の善悪も必要であれば、ある一定の中間層と呼ばれる普段はどっちつかずで日和見的な存在も無ければならないと考えている。
彼が以前の戦乱の原因にもなった、〝強制的なヒューマンチューニング手術施行法〟に対し、徹底的に抵抗戦線を張ったのにはそこに理由がある。
「可能性を統一化するということは、先行きの分岐を一つにまとめ上げてしまうということだ。そこには必ず大きなリスクが生じる」
という考えがあったからだ。
そう、分岐を無くすということは、何らかの危機が人類に及んだ場合、その対処法を統一化出来るという最大公約的で合理的なメリットが生じるが、その反面、それに対処できなかった場合、対処法が一択しかないために全滅を呼び込んでしまうというデメリットも考えられる。
「だから、様々なパターンが無数にあった方が良い」
という自然の道理から、彼は強制的なヒューマンチューニング計画に反発したのだ。
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