虹色の人類⑥
「大丈夫。あたしはクローンでもなければ、双子の妹なんかでもない。そう、あなたが昔どこかで売りさばいた〝人格コピー機〟によって生み出されたアンドロイドなんかでもない。あたしはあたし。れっきとしたエナ・リックバルトよ」
彼がまだ視界の利かない目で辺りを窺うと、エナの周辺には白衣を着た数人の研究者のような人物と、軍服を着た厳つい体格の者たちが慌ただしがうろついている。
正太郎はそれを見て何か問い質そうとするが、
「あまり喋らない方が良いわ、ショウタロウ・ハザマ。あなたはやはり疲れている。この間、あたしが助けた時だってそうだったけど、あなたはもうあたしの倍は生きている結構な年齢よ。その分、回復にも時間が掛かるわ。そんな体であの状況を乗り切ったなんて、本当に頭が自然に下がる思いしかないわ。それならそうと、あたしたちみたいに身体を半分機械に変えて生きた方が絶対に効率的だし合理的なのにね。何より存命率も上がるし、生活自体が楽なはずよ。あなたが毎日行っている修練という名のトレーニングだって、それに費やす時間も省けるしね」
エナがペラペラと思いのたけを口にすると、彼は眉間にしわを寄せた。
「……あ、ごめんなさい。またあなたと対面出来たものだから、つい嬉しくて自分の意見ばかり喋っちゃった。今はこんな話をするべきタイミングではないのにね。それに知ってるわ。あなたがこんなになってまでネイチャーとしての人生にこだわり続ける理由。……あなたは、それが楽しいからそうしているのよね? 効率的だとか合理的だとか利便性だとかを求めているわけでもなければ、何かに対して反抗心に燃えているわけでもない。ただ、あなたが折角生まれ持って備わったポテンシャルで、それをどこまで伸ばして、どこまで楽しめるかが知りたいだけ。ね、そうでしょう?」
正太郎は、しばらく溶液の中で目を瞑って黙り込んでいたが、突然静かに笑いだし、コクンと小さく頷いた。
「ふふ、やはりそうなのね。良かった。それを聞けてあたし、少なくともあなたの研究をし続けてきた甲斐があったわ。ね? インターフェーサー。この名称であなたを呼ぶのも久しいけど、あなたはやっぱりインターフェーサーだものね。その天然自然に備わった役割を存分に利用し、存分に楽しむためにあなたは一切の人体改造を施さない。それがあなただものね……」
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