虹色の人類③

 この世界の常識からすれば、雨が止んだら最後。フェイズウォーカーで身を守らぬ限り、人間の命など蟻の巣に熱湯を注いだように脆くも潰されて行く。しかも、こんな街はずれの身を守る施設も遠い場所では、命取りなことこの上ない。

 正太郎は痛む体で這いつくばりながらも、放り出された武器ケースまでたどり着き、その中から簡易ミサイル砲を取り出した。

(こんな物で、襲ってくる奴らを全て追っ払うことなんて出来やしない。だが、やらないよりは遙かにマシだ。今のこの俺に出来ることは死ぬまで生き続けることなんだ……)

 彼は動かない烈風七型の足の部分に背中を押し付け、簡易ミサイル砲の組み立てに入る。雨脚が強くなり過ぎて、目を開けているのでさえやっとのことだ。こんなことは今まで数え切れぬほどやって来たことだが、たった今はどうにも手元が狂い上手くジョイントに組み込むことが出来ない。だが、この雨が降り終えてしまえば彼の命運も尽きる。そんな悠長なことなど言っていられる場合ではない。

 どちらにしても環境は最悪の状態だ。正太郎は、息をするたびに痛む胸の辺りを気にしながら黙々とその作業を続けていた。

 するとその時――

 森の奥から、がさごそと何かが蠢く物音が彼の耳元に伝わって来た。この豪雨の中だが、彼の鋭い感覚からすれば、辺り一帯を叩き付ける雨音とはまるで別のものであるとハッキリと違いが聞き分けられるのである。

(敵か……!? それとも肉食系の連中か!?)

 いかに何度も死線を越えてきた正太郎でも、さすがに焦りという名の絶望感が背中伝いに這い上がって来る。この場面でいきなり敵対する者と出会ってしまえば、どんなに百戦錬磨の彼とて一溜りもない。

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