第十二章【虹色の人類】

虹色の人類①

 


「お、おい烈!! しっかりしろ!! テメエいつまでこんなところでお寝んねしているつもりだ!?」

 正太郎は、未だ正常に起動しない烈太郎に必死で呼びかけた。彼はまだ、凶獣ヴェロンの大群との攻防でオーバーロードダウンを引き起こしたままでいる。いくら稀代の性能を有する人工知能〝烈太郎〟とは言え、あれだけの奮闘の後では、完全回復を図るまで常識で言えばあと数時間は見なければならない。

 だが、こんな荒れ果てた森の中では悠長なことを言っていられない。さすがの羽間正太郎と言えども、フェイズウォーカー無しでは、どんな危険が待っているか知れたものではない。

「チッ、てんで反応無しかよ。こりゃあ参ったな……。ここで敵さんに襲われでもしたら、当然俺の命もおじゃんかもしれねえな」

 フェイズウォーカーという乗り物は、一応備え付けの人工知能が起動しなくとも、搭乗者だけの操作で動かすことは可能である。しかし、それはあくまで戦闘以外の移動手段での話であって、何か命の危険に晒された場合は論外なのである。そう、彼ら人工知能の最大の目的は、搭乗者の命の確保が最優先事項なのだ。

「しかし、これも仕方あるまいよ。あれだけさっきはコイツに負担をかけまくっちまったんだ……」

 正太郎は、ニヤケながらダウンしたモニターに手を当てた。

 これまでに、どれだけこの憎めない相棒と命の掛け合いを乗り切って来たことであろう。このヴェルデムンドという言葉通りの弱肉強食の世界で生き残るということは、全てが紙一重の綱渡りなのである。

 ただ強いから。ただ強力な武器があるから。ただ類稀なる才能があるからと言って、やって来られる物事ではない。

 やはりそれには、時の運も必要であれば、仲間にも恵まれていなければならぬ。さらに、その一秒一秒刻々と変わる状況に対応するだけの感覚や神経も備えていなければならぬ。

 そんな中で激しい最前線を生き残って来た彼らのような存在は、正に稀有な存在。奇跡の存在と言っても過言ではない。だがしかし……

「烈の野郎がダウンしちまった今、こいつが復活するまでのこの数時間を乗り越えられるか否かが、俺の命運の分かれ道ということだな……」

 正太郎はヘルメットを脱いだ。そしてまた、白兵戦用の道具と武器をコックピットホルダーの中から探り出すと、

「テメエが夢から覚めるまでは、俺がお守りをするまでよ」

 と、烈風七型の背中のハッチを開けた。



 

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