青い世界の赤い㉕
そのまた一方、立場上追い詰められたままの小紋は、相手がなかなか攻め入って来る気配がないことを鑑みて、一つの確信を得ていた。
(きっと、この殺気の持ち主たちは、何か訳があって次の行動に移せないでいるんだろうな……)
と。
その理由が、自分自身の思い出し笑いであることだとは、さすがの小紋でも思いもよらなかった。
とは言え、この状況で相手方がどんなに攻めあぐねていようと、こちらから攻める算段を組むのはとても難しい。今の小紋は、確たる情報も武器も持たない一般人に過ぎないのだ。
(だけど僕は負けないよ。ここで生き抜いて見せなきゃ、羽間さんに合わせる顔がなくなっちゃうもん)
彼女は、とにかく集中した。気持ちを出来るだけ落ち着かせるために。ゆっくりと息を吸ったり吐いたりして、身体の機能的な部分を出来るだけ正常に保つ努力をした。
そして、吐いた息がじっくりと辺りに広がったことを意識しながら、再び装甲車の外周を小窓の部分から覗き込んだ。
(そうだよね。さっきはいきなりアレを見たんで焦っちゃったけど、相手方がどんな武器を使用しているかを知らなきゃ、何の対処も出来ないよ……)
彼女は、まるで自分自身の隣に羽間正太郎がいるような気持ちで自分自身に語り掛けた。そうすることによって、何とも言えない安心感を得られるのである。そして先程あったように、まるで第三者が自分という肉体のアバターを操作している感覚が舞い降りてきた。
小紋は、後にこの感覚の状態を正太郎に
「まるで、僕という肉体を、僕と羽間さんが一緒になって動かしているみたいな感じだった」
と返答した。
その時点での感覚はとてもハッキリしているのに、なぜかふわふわと宙に浮いているようで、それでいて視界が今まで以上に広がっている。続けざまに彼女はそう語った。その上、摩訶不思議なことに、数分前から数分後までの時間経過が全て情報となって見えているのだという。
例えば、彼ら、黄金の円月輪の暗殺者が、これから放つであろう黄金色のチャクラムの起動が、まるでマルチビジョンのコマ送りのような画像となって現れるのだと言う。
そんな事象を体験したことがない人々に話せば、
「そんな馬鹿なことあるわけない」
と、軽蔑の眼差しで一蹴されてしまいがちだが、さすがに羽間正太郎だけはまるで反応が違った。
「へえ! 小紋、やっぱお前も出来る様になったんだな! さすがだな!」
正太郎は、特段の笑みを浮かべながら、彼女の頭を撫でてきたのだという。
つまり、彼ら黄金の円月輪の恐れる〝三心映操の法術〟とは、そのような時空を超える能力を秘めた法術なのである。
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