青い世界の赤い⑮


「な、なんと!? 静寂以上の静寂と申しますれば、それは我らが黄金の円月輪に永らく語り継がれている秘中の秘……。〝三心映操の法術〟のことでは御座りませぬか?」

「ウム、その通りだアフワン。その三心映操の法術を使用し、我らをどこからか監視する者がこの辺りに居る。……いや、居るような気がする。至極ハッキリとは解からんがな……」

「それは真で御座いますか!? アヴェル様!! 三心映操の法術を会得するともなれば、かなりの修練と卓越した感覚センスが必要とされまする。先日の羽間正太郎と申す者もそうだったのですが、そのような秘中の秘術を容易に会得できるような資質を有した者が、このような場所に……」

「アフワンよ、世界は我々の考えるよりとことん広い。私は、先日あの羽間正太郎と相対してその言葉を奇しくも受け入れねばならなんだのだ。そして、その意味合いこそが我ら人類の生き残りを賭けた進化への布石でもある」

「御意。アヴェル様の仰る通り、我々人類は、さらなる進化を遂げねば奴らに根絶やしにされること間違いありません。その意味を、その理由をこの愚鈍とも言える今の地球市民に訴えかけるならば、このような愚行に手を染めることも致し方ないものかと……」

「フム……。貴様が立案したこの無残な所業……我とて心が痛む。が、それをやり遂げねばさらなる苦難が人類に待ち受けていると申すのであろう?」

「御意。我々、いにしえより裏舞台で世界の根幹にたずわわって来た〝黄金の円月輪ゴールデンチャクラム〟であるが故に、その根幹にある難題に対処して参らねばなりません。今の骨抜きにされた一般市民にそれを直接語りかけたところで、何を生み出すもので御座りましょうか?」

「ウム、それは相分かっている、アフワン・セネグトルよ。だから私たちは、その汚名を被ってでもこの人類の進化に貢献せねばならぬと申すのだな?」

「御意! しかし、その進化の動き、様々な場所の様々な力によって有象無象の動きを見せております。先日のアイシャ様の一件では残念な結果を生み出してしまいましたが、我々の掲げる理想にはあと少しの辛抱が必要かと……」

「アフワン……。それを持ち出されると、私とてなお心が痛む。それ以上申すな……」

「これは失礼いたしました、アヴェル様。――しからば、その三心映操の法術らしきものでこちら側を監視している者に対しては、どう扱えば宜しいでしょうか?」

「フム……、そのような才覚と感覚を有する者をあやめるのは惜しいが、我々の理想を阻むともなれば仕方があるまい。忘却の法術が効かぬともなれば、今の時点で我らが存在を世間に知らしめてしまう可能性がある」

「それでは宜しいので御座いますね? この者たちのように口封じということで……」

 アフワンは、そこらじゅうに横たわる亡骸に目をやる。

「止むを得まい……」

「御意!」


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