青い世界の赤い⑪
するとどうだろう。この辺りでまばたきもせずに目を見開いていたまま突っ立っていた野次馬や警官隊の人々が、一斉に何かから解放されたように天を仰ぎ、今何が起きているのか理解できないといった表情でお互いの顔を見合わせるのであった。
(やっぱり僕の思った通りだ! この人たちはみんな催眠状態だったんだ!)
小紋は、周囲の人々の瞳孔が開きっぱなしになっていたことを見逃していなかった。目の前の有り得ない状況を目の当たりにして驚いているにしては、あまりにも不自然だったのだ。
野次馬を始めとした人々は、また目の前の不測の事態に驚愕し、皆一斉にその場から逃げようとした。それを察知した警官隊は、パニック寸前の人々をなだめながら避難誘導をする。
まるで嵐の海の引き波のようなその状況を背に、小紋は人の流れに紛れつつも、自衛隊の装甲車両に取りついた。真っ赤に染まったブルーシートの囲いの向こう側でなにがあったのか確認するまでは、この場を離れたくなかったのだ。
(こんなところで尻尾を巻いて逃げ出すようなら、僕はあの世界に一生戻れない……)
彼女は、誰も乗っていない装甲車の中に忍び込むと、窓枠からそっと外の様子を窺った。この場所からならブルーシートの囲いの中を直接見ることが出来る。だが、いくらあの世界の危険な橋を渡り歩いた小紋でも、血で染まり切ったブルーシートの内側を窺うには非常に勇気が要ることだ。どんなに慣れがあるとは言え、さすがに人の亡骸を見るのは忍びない。
「もう! 女は度胸!!」
小紋は、滴る冷や汗を拭うことなく、半分やけくそになりながらひょっこりと窓枠越しに外を窺った。すると、
「うわっ……!! 何これ!?」
案の定、思わず唸り声を上げてしまうほど彼女の想像を裏切らない光景が飛び込んで来た。
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