黒い夏の34ページ
勢いとは言え、俺を信じろ……とはよく言ったものだ。勇斗は、自身の言葉がとても恥ずかしくなった。
だが、そんな悠長に猛省している場合ではない。あの早雲が、か弱い女性の身体のままどこかに飛び出して行ってしまったのだ。先ごろまで彼女が戦闘マシンであった事を比べれば、今がどのように危険な状態なのか想像するに容易いことだ。
急を要するこの状況に、勇斗は思いきり立ち上がろうとした。がしかし、
「うっ……、何だこれは……!?」
いくら立ち上がろうとしても、下半身に力が入らない。というよりも、完全に腰砕けな状態なために、一度浮いた腰がまたストンと地面に落ちてしまうのだ。何が起こったのかさえ分からず、勇斗はパニックに陥りそうになった。
(まさかこの身体……、とんだ不良品を
またあの博士に一杯食わされたと思うと、余計に胸の辺りが苦しくなる。
いくらあのジェリー・アトキンス隊長の身体の
「ク、クソッ!! やっぱりあの時、這いつくばってでも元の身体を取り戻せばよかった……!!」
後悔先に立たずとはよく言ったものだが、実際にそれが可能であったかどうかは二の次だ。
勇斗が歯ぎしりをし、腹の底から憎しみめいた言葉が込み上がって来た、その時、
「いやぁっ!!」
という少女の金切り声が、鍾乳洞内に
勇斗は意を決し、匍匐前進しながらも声のする方向を目差した。この鍾乳洞は、何層にも別れる通路によって構成されており、全て博士の手による施しが成されていた。
至るところにある照明。階段。時にはエレベータのようなものまである。そして、あの腕や足だけが繋がれた人間のようで人間でない生き物が
どの場所も陰気で血生臭ささが立ち込めている。這いつくばりながら進むと、勇斗の身体に水のようで水ではない液体が
そして、早雲の声の出どころが分からなくなった時、
「おおい!! はやぐもぉ!! いるなら返事しろぉ!! 今どこにいるんだぁ!!」
と、勇斗は必死で呼びかけた。するとその瞬間――
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