黒い夏の34ページ

  

 勢いとは言え、俺を信じろ……とはよく言ったものだ。勇斗は、自身の言葉がとても恥ずかしくなった。

 だが、そんな悠長に猛省している場合ではない。あの早雲が、か弱い女性の身体のままどこかに飛び出して行ってしまったのだ。先ごろまで彼女が戦闘マシンであった事を比べれば、今がどのように危険な状態なのか想像するに容易いことだ。

 急を要するこの状況に、勇斗は思いきり立ち上がろうとした。がしかし、

「うっ……、何だこれは……!?」

 いくら立ち上がろうとしても、下半身に力が入らない。というよりも、完全に腰砕けな状態なために、一度浮いた腰がまたストンと地面に落ちてしまうのだ。何が起こったのかさえ分からず、勇斗はパニックに陥りそうになった。

(まさかこの身体……、とんだ不良品をつかまされたのかもしれない……)

 またあの博士に一杯食わされたと思うと、余計に胸の辺りが苦しくなる。

 いくらあのジェリー・アトキンス隊長の身体のだとは言え、あの黒い嵐の事変からもう数カ月は経っている。前代未聞のこの技術。ジェリー・アトキンスの意識が無くなくなり、その遺体をそっくりそのまま保存していたところで、何らかの問題が生じないはずがない。

「ク、クソッ!! やっぱりあの時、這いつくばってでも元の身体を取り戻せばよかった……!!」

 後悔先に立たずとはよく言ったものだが、実際にそれが可能であったかどうかは二の次だ。

 勇斗が歯ぎしりをし、腹の底から憎しみめいた言葉が込み上がって来た、その時、

「いやぁっ!!」

 という少女の金切り声が、鍾乳洞内に木霊こだました。言わずもがな、その声の主は早雲である。

 勇斗は意を決し、匍匐前進しながらも声のする方向を目差した。この鍾乳洞は、何層にも別れる通路によって構成されており、全て博士の手による施しが成されていた。

 至るところにある照明。階段。時にはエレベータのようなものまである。そして、あの腕や足だけが繋がれた人間のようで人間でない生き物がうごめいているプールのようなものがある。

 どの場所も陰気で血生臭ささが立ち込めている。這いつくばりながら進むと、勇斗の身体に水のようで水ではない液体がまとわりついてくる。

 そして、早雲の声の出どころが分からなくなった時、

「おおい!! はやぐもぉ!! いるなら返事しろぉ!! 今どこにいるんだぁ!!」

 と、勇斗は必死で呼びかけた。するとその瞬間――

 

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