黒い夏の35ページ
「うわっ、なんだ……!?」
突然、勇斗の目の前に黒い塊のようなものが物凄い勢いで飛んできた。彼は即座に身を低くし、ぎりぎりそれをかわすことが出来た。が、どうやらその物体から飛び出てきた液体を被ってしまい、全身がドロドロのネバネバ状態になった。
しかしこの粘液の臭い、どこかで嗅いだことがある。それに、多少ではあるが、直接肌が触れている部分がピリピリと刺激されている。
「こ、この感じ、確か軍の教練で習ったはずだ……」
勇斗はうつ伏せのまま、全身にかかった液体の臭いをもう一度よく確かめた。すると、なんとも得も言われぬ甘い香りが彼の鼻腔を
「そうか、これはローゼンデビルの体液の匂いだ……」
ローゼンデビルとは、このヴェルデムンドの大地全域に生息する肉食系植物の代表的な生き物だ。見た目はお椀に八本の触手が生え、底部に繊毛のような足が数百万本生えた化け物である。
移動は、その繊毛によって宙を浮くようにすばしっこく走り回るのだが、お椀の上から生えた触手に捕まりさえしなければ命を落とす事はない。だが、ひとたびそれに捕まれば、即座に底部の繊毛に取り込まれ、彼らの出す甘い香りの溶解液によって、人間など半日で養分と化してしまう。
とは言え、その大型犬程度の大きさから言って、さほど人間の脅威になり得るほどではないのがローゼンデビルである。
しかし、どんなに脆弱なローゼンデビルであろうとも、それらが集団で掛かって来ようものなら、生身の人間など一たまりもないだろう。
「だ、だけど……何でローゼンデビルが……」
勇斗は、全身にかかった体液を手で振り払いながら辺りを見回した。すると、何とその鍾乳洞の通路の至るところに、ローゼンデビルらしきものが強引な力によって壁に叩きつけられた跡がいくつも見つかった。
「す、すげえや……」
勇斗は絶句した。まるで水風船が壁に叩きつけられた跡を見てるようである。いくらローゼンデビルが脆弱な肉食系植物だとは言え、大型犬並みの体積を誇る生き物をこれだけの力で叩きつけるには、フェイズウォーカーか、もしくは高性能の戦闘アンドロイドでなければ不可能である。
しかし、ここはフェイズウォーカーが入れるほどの広さも無ければ、戦闘アンドロイドのような重量級の機械人形の足跡も残っていない。
勇斗がそこで首をひねったと同時に、
「いやぁっ!!」
と、また早雲の悲鳴が聞こえてきた。すると再び、
「おわっ……!!」
勇斗の目の前に、またローゼンデビルらしき物体が吹っ飛んできた。そしてその物体は、前の物と同様に見るも無残に鍾乳洞の壁に叩きつけられて一瞬で砕け散った。
「ま、まさ、まさか……」
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