黒い夏の30ページ


「まあいい。お主と話していても平行線をたどるだけじゃて。時間の無駄じゃ。わしはこれからやることが沢山あって忙しいのじゃ。もうお主らを構っとる暇などありゃせん」

「な、何を勝手なことを言っているんだ! アンタは鬼か!? 悪魔か!? 早く俺たちの体を元通りにしろ! そうしなければ……」

「そうしなければ何をするというのじゃ!? お主らのような中身が小童こわっぱと女子供ごときに何が出来る!? 儂の本来の姿は、いかんせん朽ち果ててしまっておる。残念ながらもう肉体が寿命を迎えてしまったのじゃ。にもかかわらずお主らは、体ばかりが大層若くて丈夫に出来ている。しかし、その使い道が分からん愚か者の集まりじゃ。ならば、実に才能に秀でたこの儂がそれらの肉体を役立てた方がよっぽど良い。それが世の中の為というものじゃ!」

「な、何を言ってやがる! アンタのやってることはただのコソ泥だろうが! 自分がただ生き延びたいだけの単なるエゴイストじゃないか!!」

「ふん、なんとでもぬかせ! この世の中はな、ほんに才能のある者が偉くならなければならん。そして生き延びねばならんのじゃ。そうでなければ世界は互いに食いつぶし合ってしまう。そんな簡単なことが解からんから、お主らはいつまでたっても愚かなままなのじゃ。ほれ見てみい! 儂のように才能のある者は、こんな芸当も簡単に出来てしまうのじゃて」

 博士はそう言って、勇斗の姿のまま右手を挙げた。すると、どういうわけか四方八方から同時に様々な声が聞こえてくる。その上、同時に同じ言葉を喋りながらその声は近づいてくる。

「さあ、これが今の儂の姿じゃ。とくとその目で見るがよかろう!」

 博士は言うや、鍾乳洞内の照明を全開にした。さればなんと、数百名にも及ぶ様々な人がその場所に集まって来た。

 多くは軍服を身に纏った兵士ばかりだが、中には戦闘型らしき風体のアンドロイドや、一般人らしき服装の男性の姿までいる。そして、それらの人々の後ろには、数十体のフェイズウォーカーの姿まである。

「あ、あのフェイズウォーカーは、もしかして不知火しらぬい九型……!?」

 勇斗はまたしても驚いた。なんとそのフェイズウォーカーとは、勇斗が方天戟17号を軍の格納庫から奪った際に追跡してきた憲兵隊専用機で間違いない。辺りをよく見ると、軍服姿の人々の中には山吹色に染め上げられたペルゼデール軍憲兵隊らしき制服を着た者たちが多数紛れている。

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