夏の黒い④ページ
「それはモシカシテ、セシル・セウウェル曹長の一件についてのこと仰っているのでショウカ?」
「それもある。……何だよ、悪いか!?」
勇斗は思わず言葉を淀ませた。これ以上身の上話をすると、このままではまた早雲の長い説教が始まってしまう。相手が人間ならまだしも、人工知能相手に言葉で敵うはずもない。それならば、ここは一旦言葉を切って様子を見るしかない。
「大体においてユートさん、アナタは……」
そう早雲が言いかけた時、ガイドアラームが鳴った。レーダーセンサーに敵影を確認した警告音だった。
「あ、クソッ!! もう見つかったのか!?」
「イイエ、そんなはずはアリマセン。この場所は地下水脈に抜ける鍾乳洞の中です。さすがにこの鍾乳洞はヴェルデムンドガイド地理院のマップにすら記載されておりませんので、そんな簡単に見つかるわけがアリマセン」
「そうだな。さっき偶然見つけた洞穴だもんな。セシルさんが訓練で教えてくれた通りに、ダミーポッドも至る所に置いてきたし、いくらなんだってそりゃないよな」
「デハ、一体何なのデショウ?」
二人は一瞬言葉を失いながらも、恐る恐るモニター画面を凝視した。すると何とそこには、こんな真っ暗闇な場所で、明かりも灯さずにのっしのっしと歩く人影を見たのだ。
「うわあぁぁっ!! なんだよこれぇ!?」
「ヒ、ヒトデスネ。ヒトが歩いてイマスネ!」
「分かってるよ、そんなもん! 見たまんまだろ! 問題はそこじゃなくって、何でこんな場所で人が歩いているか何だよ!」
モニターは、暗視モードによって鍾乳洞の中をくまなく映し出している。だが、その色彩の乏しい画像に映し出された人影は、途轍もなくこの光景には違和感があり不気味に映っていた。
その人影は、この真っ暗闇の中でも何の明かりも灯さずに、極端に凹凸の効いた足場を器用に渡り歩いている。水の溜まったヘリすらも避けて、針のように尖った鍾乳石の障害物も難なく乗り越えている。
二人はその光景を固唾を飲んで見守っていた。正に、あり得ないものを見てしまった時の情報の整理がつかない瞬間だからだ。
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