野望の102

「な、何で解かるかって……そりゃあお前、見ての通りだからだよ」

 あっけらかんと答える正太郎。

「見ての通りって言ったって……オイラ全然わかんないから聞いてるんだけど……」

「そ、そうなのか……?」

 どうやら彼は本気でそう思っているらしい。

 烈太郎は、時々正太郎の感覚に付いて行けなくなる。一体、何を見て何を考えているのかてんで掴めなくなるのだ。推理力、推測力、予測力、洞察力。どれをとっても本来なら人工知能である烈太郎の方が正太郎よりも上回っている筈なのに、ややもすると、正太郎の方がさも当然のように把握しにくい状況をとうの昔に理解してしまっていることがある。

(お父さん……。オイラは、また正太郎の兄貴のことを怖い人だと思ってしまいました……)

 烈太郎は、再び声を出さずに身震いをする。

 そんな折、

「だってよ、烈。いいか?」

 正太郎が落ち着き払ったトーンで問うてくる。

「う、うん……」

 烈太郎は慌てて声を合わせる。

「あの、まだ年端もいかねえ小娘のエナに、あんな荒くれ共がかしずいて行動している時点でいかにも怪しさ満点な状況だと思わねえか?」

「う、うん……そりゃそうだよね」

「てえことはよ、あいつらの間に何らかの深い理由があるってことが見えて来るだろ?」

「う、うん。そこまではオイラでも何となく解かるよ、兄貴」

「じゃあ、それは置いといて。お次は、五年前のあれだ」

「あれって?」

「あれって言やあ、ほら、人工知能グリゴリの失踪だよ。アイツは俺と最後までやり合っていたくせに、突然ふいに姿を消しやがった。おい烈よ、テメェは奴がどうやって公衆の面前からいきなり消息を絶つことが出来たのか解かるか?」

「う、うーん。もしかすると、三次元ネットワークを使って電波伝いにどこかに移動しちゃったとか?」

「そりゃあ考えられる線だが、ちと難しいな。グリゴリは仮にも大型の人工知能だ。もし、ネット伝いに移動するとなったら、それ相当の受け入れ先も必要になる。おまけにデータも意識プログラムも大容量過ぎて、移動するだけでもかなりの時間がかかる。それが、あの調査班のガサ入れする数分の間に消えたとなると……」

「あっ!! 兄貴。もしかして、近くに受け入れ先が!? となると、もしかして人工脳?」

「お、ようやく気がついたか、このバカ烈が。そうだ、そういうことだ。グリゴリは、あのどさくさに紛れるように、辺りにあった人工脳に分散して移動したんだ」

「でもさ、兄貴。周りにいたアンドロイドたちは、兄貴の無茶な攻撃でみんなオシャカになっちゃっていたはずだよ?」

「おい、烈。俺とグリゴリが最後にやり合った場所をもう一度考えてみろ。あそこはどういう所だった?」

「え、どういうところ?」

「そうだ。あそこには、俺以外に必ず存在する物があったはずだ」

「存在する物? えっと……そうか!! 兄貴以外の人たちは、みんなミックスだ!」

「そうだ、そういうことだ。てえことはつまり、ミックスには人工的な補助脳という便利な隠れ家が存在すると言うわけだ」

 烈太郎は半ば呆れ返ったように言葉を失った。この目の前にいる男は、いつの間にそんなことを考えていたのだろうか?

 正太郎は続けた。

「グリゴリの野郎は、半死半生の警備兵や職員の補助脳にその身のデータを分割して乗り移ったと考えるのが俺は妥当だと思っていた。あの発電施設の電力をふんだんに利用してな。そうやって奴は難なくすました顔をして俺たちの前から姿を晦ましやがったんだ。そして無論、その手引きを陰から支援した者の存在が浮き彫りになって来る。その存在が……」

「エナちゃんというわけなんだね?」

「ああ、おそらくな……」

 

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