野望の85


 その刹那、袋小路の壁から一機の小さな車両ドローンが落下した。その車両ドローンは、壁に張り付き老紳士の動きに連動しながら攻撃を仕掛けて来ていた。しかし、正太郎が音のする方向にデュアルスティックを突き出したことで、その衝撃によりペシャンコになり跡形もなく砕け散ったのである。その欠片は無論、人の視覚に捉えられにくい特殊迷彩コーティングが施されている。

「まあ、そりゃあ認めるがね、テメェのその超ハイテク技術の賜物とやらを。こんだけ繊細かつ絶妙なタイミングでドローンにナイフを打ち出させてくるなんざ、考えただけでも身震いするほどの高等技術ってもんだ。しかしな、どんなに技術が高くたって一度見えちまった手品の種は人の概念を簡単に変えちまう。てえことは、もうその技術は神の領域でもなんでもねえ、お楽しみ会用の余興程度のものさ!」

 正太郎は言うや、もう一方から飛んでくる小さな手裏剣型をしたナイフを打ち払った。と同時に乾いた金属音がするや否や、その角度の方向にデュアルスティックを突き出すと、

「手応えあり!」

 とばかりにぐしゃりといった感触が右手の平を通して伝わって来た。

「グヌヌ……」

 老紳士たるグリゴリは、この始祖ペルゼデールから受け継いだ方法を見破られたことで、またしても正太郎にしてやられ苦虫を噛み潰した。

 その事実は、彼がこの世界に創造されてより一番最悪の衝撃であった。人間より上位の存在として生み出された人工知能であるがゆえに、あってはならない事実なのだ。

 しかし、どんなに彼が人間から見て傲慢な考えを持っていたとしても、彼は人類の発展の為に貢献してきたことは間違いない。それが何故かこのようにことごとく反発を食らい打ちひしがれてしまう。そんな矛盾への行き場のない感情が彼をさらに狂わせてしまう。

「始祖ペルゼデールよ! ワタシはたった今、人間という愚かな生物だけでなくこの世界全てに絶望シタ! そしてアナタに対しても絶望シタ! このような矛盾を生む世界など、それこそ全てが不完全ソノモノ! よってワタシはこの世界の全てを破壊し尽くス! ワタシが存在する意味などナイ! よってこの世界など無くなってしまえばイイ! いいやこの矛盾だらけの世界は無くなるべきであり、無くなることが完全な真理を満たす土台となるノダ!!」

 

 

 

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