野望の83


 すると、正太郎はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、

「ふん、だから俺ァこんなゲッスンの谷くんだりまでやって来たのさ! それがテメェなんぞに解かるか!? テメェは結局自分のエゴだけをそんじょそこいらにぶつけて暴れまわっているだけのクズ野郎だ! 俺ァそこを一時的にぶち壊しに来た! それまでだ!」

「キ、キサマ! 何を言っているのダ! いい加減な言葉を並べてこのワタシを惑わすなどと一万年早い! キサマの様な下等生物に見下されるナド、ワレワレ人工知能十万年の恥ダ!!」

「へへっ、そうやって精々わめき散らすがいいさ。そういう共通言語を持たねえテメェらは、所詮評論染みた機械そのものなんだよ! どんなに人間の真似事をしても、どんなに見た目を取り繕っても人間になんかなれやしねえ。人間としての痛みも悲しみも喜びも楽しみも、そして怒りなんかもこの俺たちの様な不完全な肉体があっての事さ。それが完全体になったとかせせら笑ってぬかしているようじゃ、共通の意思疎通なんか出来たもんじゃねえ。ある意味本当の愚か者はテメェの方だぜ! このど天然野郎が!」

「ぐぬぬ……、下等生物の分際で好き放題いいオッテ……。キサマという男は口だけはよく回る。シカシ、舌戦で優位に立ったからと言ッテ、実力で敵うと思うナ!!」

 その刹那、老紳士の表情が鬼の形相に変わった。その姿はもはや、数多の選別を行い、数多の導きを行って来た厳格ある人工知能グリゴリの物ではない。皮肉にも、私怨と情念によって見境を失くした人間そのものの姿であった。

「そうさ、その矛盾と矛盾の狭間に生きる俺たちの姿こそが人間なんだ。テメェはこれでやっと俺たちに近づいた。そして同じ盤上で戦う権利を得たってわけだ。ここからが俺たちの本当の勝負だ!」

 正太郎は言い終えると、手にしたデュアルスティックを大上段に構え老紳士を睨み付けた。彼は先程から攻撃を受ける度に得も言われぬ違和感を覚えていた。この大型人工知能が作り出した実体のある浮遊体の正体が何であるかはさておき、受けた攻撃の角度と自らの傷の角度に微妙なズレを感じていたからだ。

(そうだ……、傷が出来たからって目の前のコイツが実体とは限らねえ。受けた傷は傷、そして見てくれのコイツの体は体なんだと分けて考えてもおかしくはねえ……)

 

 

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