野望の63


 この撃ちミスは大失態だった。今の銃声のお陰で、正太郎に反撃の意思があるということが相手側に伝わってしまった。

 そして何より、銃弾が狙った先に正太郎らが作戦の要とする物質〝エクスブースト〟をひけらかしてしまったのだ。

 ホログラムの老紳士を始めとした軍団は、一斉に中継器の方に目を向けた。そして人間には到底真似できない速さで解析を試みると、

「なるほど、ソウカ! ショウタロウ・ハザマ、貴様らのおおよその目的は理解デキタ。そのゲッスンライトを液体にした物質で、我々に一杯食わそうという算段ダナ? ということは、そこにいる女も貴様と同罪ダ! ナラバ、我々にとって危険な貴様らは、即、万死に値スル。コレハ、この国の法を超えた生き残りの為のカタルシスダ!」

 ホログラムの老紳士は、ためらいもなく武装型アンドロイドの軍団に攻撃の指示を出した。武装型アンドロイドは、秘密警察直轄の人工知能により標的を正太郎と人質になったアンナにスティルベレットの発射口を向ける。

「くうっ……何言ってやがんだ! 何が法を超えただ! 余りにも手際が良すぎるぞ! 奴ら最初っから俺たちを殺すつもりでいやがったな!」

 正太郎はぼやくが、もうそんな悠長な言葉で茶を濁している場合ではない。今にも奴らは針の弾丸で二人を穴だらけにしようと待ち構えている。

 もう選択肢は無い。アンナの身を案ずるより先にあの変電中継器に掲げられた〝エクスブースト〟を撃ち抜かねば犬死にだ。

 正太郎は集中した。残弾はあと2発。もう一秒たりとも無駄には出来ない。

 武装型アンドロイドの数体は、アンナを取り囲みスティルベレットの銃口を彼女に向ける。そして残りの数体は正太郎の居る場所へとのっしのっしと近寄って来ては同じく銃口を向けてくる。

 いつ発射されるか分からない状況で、正太郎はとにかく標的の事だけに意識を寄せ、

「さらばだ、アンナ!!」

 と、雄叫びの様な声を上げて連続で引き金を引いた。

 M8000から放たれた銃弾二発のうち一発は近寄って来たSP-099K型の腕に当たった。その弾丸は乾いた金属音と共にどこかに跳ね返って飛んで行った。

 そしてもう一発は、運良くそれらの股の間を潜って一直線に変電中継器へと向かって行き、

「当たってくれぇ!」

 との彼の願いと共に、青く光る液体の入ったアンプルを見事粉砕した!

 まるでスロービデオ画像のような意識の中で、正太郎はやり遂げた達成感と共に、美しくも気高い女性アンナ・ヴィジットとの別れの一瞬を惜しんだ。

「アンナーッ!!」

 正太郎の悲痛な咆哮ほうこうと共にエクスブーストは飛散し変電中継器の中に浸透する。

 すると、中継器の中からくぐもった雷鳴の響きにも似た振動が辺り一帯に木霊したかと思うと、

「ぐわぁっ!!」

 と、正太郎も思わず立ちすくんでしまうほどの閃光がほとばしる。

 その閃光の正体とは、過重電圧によって行き場を失ったエネルギーが稲光となって各所に設置されたピンポイントブーストから放たれたものである。

 それは正に怒り狂った竜の如し。

 その竜は猛り狂った獣のようにそこに集まった武装型アンドロイドたちのどてっ腹を次々と射抜いてゆく。大穴を開けられたアンドロイドたちは息を飲む間もなく眩しい光を放ち次々と焼けただれながら崩れ落ちてゆく。

 正太郎はその光景を前に呆気に取られていた。エクスブーストの威力がこれ程までの効果があるなどと思っても見なかったのだ。

 その電光の竜が天を貫き、ほぼ空間上に消え去った時、

「ア、アンナ……、アンナーッ!!」

 正太郎は崩れ落ちたアンドロイドのスクラップの中に思いっきり駆け込んだ。 

 

 

  

 

 

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