野望の62
正太郎は、手にしたM8000の銃口を変電中継器に向けた。標的まで数十メートル程あるが、ここからなら何とか届く距離だ。
しかし、残弾はあと3発。一発でも当たれば何らかのアクションが望めるが、一発目を放った時点で銃声音が辺りに響き渡る為、向こう側から提示された交渉は自動的に決裂する。
「ここで怖気づいて撃たねえ手はねえ……。俺ァ、人間もどきなんかの言うことより、アンナ……きみの描いたシナリオを信じるぜ! きみともう一度熱いキスが出来ることを信じてな!」
その時、正太郎に一片の迷いも無かった。正太郎が予測した彼女が描くシナリオ通りなら、この危機的状況は必ず脱せられる。
正太郎がM8000の引き金を引こうとしたその時――
「い、いや待てっ!! 俺がここであの的に弾を当てちまったら……!?」
いきなり閃光のように考えが走った。正太郎にはその先が見えてしまったのだ。もし、アンナの思うがままに引き金を引き、首尾よく変電中継器に掲げられたエクスブーストに銃弾が撃ち当てられたなら、
「エクスブーストの作用が働いて変電中継器はオーバーロードを起こす。てえことは、ここにいる武装型アンドロイドはみんな過充電ブーストを起こして……アイツらに捕まってるアンナは無事では済まなくなる……!!」
ここで敵対している最新型のSPー099K型戦闘歩兵とて他のマシンらと何ら変わらない。動力に伝わるエネルギー源は、ピンポイントブーストからの無線充電で賄われている。
もし、ここで正太郎が変電中継器に掲げられたエクスブーストを撃ち抜いたとすれば、その特殊な液体は変電中継器を覆う金属に滲み込んで行き、あらゆる半導体などの作用を過剰に狂わせてしまう。そして結果、過重電圧によって辺り一帯にある武装型アンドロイドらのオーバーロードを引き起こす。
しかし、そうなればそこに捕らえられているアンナの命の保証はない。まして、アンナ自体もミックスなのだ。彼女の身体にさえ影響してしまう。
正太郎は一旦打つのを止め、目を見開きながらアンナの方を見やった。すると、アンナは力強い眼差しで正太郎に、
「撃って!」
と答えた。
「お、おい、アンナ……、嘘だろ、アンナ!!」
ハッキリと言葉に表して聞こえたわけではない。しかし、アンナの目は確かにそう答えている。
もう迷っている時間的猶予はない。ここで撃たなければ、彼女が折角用意してくれたシナリオの効力さえ消し飛んでしまう。
「く、くそっ……!! 成すがままよ!」
正太郎は引け目を感じながら引き金を引いた。乾いた爆音とともにM8000から射出された弾丸は直線を描き、変電中継器へと向かった。だが、迷いがあったせいだろう。弾はむなしくも数センチ横に逸れてしまった。
「う、くそっ……!!」
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