野望の㉒

「なんだと!? あの新型が二機も墜とされただと?」

 正太郎は考えた。

 エナが率いる生き残り小隊が扱っているフェイズウォーカーは、第十三寄留ムスペルヘイムがヴェルデムンドの戦乱後に開発した最新鋭機である。機体名は“クイーンオウル”。戦時中に製作された烈風七型の機動力に勝るとも劣らぬ性能。量産型とは言えど、計算速度と予測的中率に優れた人工知能。そして、攻防一体型で全方位に連続射出可能なソニックブームブラッシュキャノンと、ソニック・ガ・ジャルグという超振動を利用した槍を装備している。

 そんな高性能最新鋭機の集団の中の二機が息をつく間もなく墜とされたとなると、これは考え物である。

 先日の正太郎が、いくら本調子ではなかったとはいえど、彼らの腕は確かなものだった。しかも、彼らは荒くれ兵士の集団であるにもかかわらず手練れのミックスである。そして、何より後方で指揮を執っているのが、あのノックス・フォリーのアマゾネスとまで称されたエナ・リックバルトなのだ。

「なのに、どうして……!?」

 正太郎に一抹の不安が走る。

「ねえ兄貴! オイラ、さっきからエナちゃんにアクセスを求めているんだけど、エナちゃんにちっとも繋がらないんだ。何かあったのかな?」

「おい烈! これはひょっとするとひょっとすると言うより、かなり高い確率で俺の予測が当たってるかもしれねえぞ!」

「う、うん。オイラも今そう思った。兄貴がオイラに思い出させたことが、真実なのかもしれないね。あのエナちゃんは、本物じゃないってことが……!?」

「ああ、だが、もしあのエナが本物ではなくてあの悠里子のような幻影だったとしたら、なんでアイツらはエナの幻影に取り込まれたりしねえんだ? 定石で考えると矛盾しちまうぜ」

「え、あ、あの、兄貴ぃ。兄貴が解からなくてオイラにそんなこと解かるわけないじゃんか!」

「テ、テメェ、高性能の人工知能なんだから、もうちっと考えるふりぐらいしろよ!」

「だってえ。いっつも兄貴が色々考えてくれるから、オイラ、あんまりそういうの得意じゃなくなっちゃったんだあ」

「チッ、仕方ねえなあ。ここで四の五の言ってもしゃあねえから、奴らの戦闘区域に急いで合流するぞ!」

「アイアイサー!」

  

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