野望の⑱
烈太郎は、そう言われて慌ててセンサーを最大限稼働させる。しかし、
「あ、兄貴ぃ。たった今起動させたけれど、人の気配なんて何もしないよ?」
「チッ! それじゃ、俺が感づいたと知って気配を消しやがったんだ。確かに少し前に、俺の背中に針の穴を射抜く様な鋭い眼光が走ったんだ。間違いねえ」
すると烈太郎は、
「兄貴。それは気のせいじゃないの? 兄貴は昔から神経が過敏になり過ぎちゃう時があるから……」
「ふん。テメェ、俺の言う事が信じられねえってのか?」
「そ、そうじゃないけどさ……。でも、兄貴はここのところ色々とあったから、ちょっと……」
烈太郎は、両手の指と指を合わせてもじもじする。
「ふん、まあいいさ。確かにお前の言う通り、ここんところの俺ァどうかしちまっているだろうからな。気のせいならそれに越したこたあねえさ」
正太郎はそう言いながらも、目だけで辺りを窺い続けた。
時に、過敏すぎるという烈太郎の言い様も、まんざら的を射ていないわけではない。だが、この感覚は生まれてこのかた彼に備わっている生命線と言っても過言ではない。いくら最近の彼が精神的に追い込まれていたとしても、己の感覚だけには自信がある。
そしてもし、正太郎のその感じ方が当たっているのだとするのなら、この殺気の正体はこの一連の集団の中にいる可能性が高くなって来る。なぜなら、エナ・リックバルトらのグループ以外、この周辺には生命反応が無いのだから。
「となると、これは厄介だな……。この中に、俺らを歓迎しねえ意思を持った奴が紛れ込んでいることになる。これじゃ、おちおち大いびきかいて眠りこいてる場合じゃねえってこった」
正太郎は、まだ完全に復調していない体に不安を覚えながら、黙々と撤収作業に専念するのであった。
そして、その正太郎の不安は悪い方向で的中した。彼が気晴らしに烈風七型のコックピットから降りて水を飲もうとしたところを、狙撃用ライフルで撃たれたのだ。
撃たれたと言っても、殺気に気付いた彼は咄嗟に弾道を予測し、水筒を撃ち抜かれただけで事なきを得たのだが、それが特殊合金製の水筒であっただけにぞっとしない事象である。
「こいつは驚いたぜ。なんて正確無比な射撃だ。この狙撃手は、俺に気付かれない間合いで撃ってきやがった。あの時、俺を後ろから窺っていたのは、その為の間合いを測っていやがったんだ。なんて野郎だ……」
まるで精密機械のような射撃スキルとその計画性に、流石の正太郎も苦虫を噛み潰すしかない。
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