野望の⑬


 すると女は顎に手を当て、

「あら、知らないの? インターフェーサー。あたしがいた寄留地では、あなたの様な人をそう呼んでいたのよ。もっとも、あたしが理論立てて名付けた学術用語だから、他の寄留地の人に馴染みがないのも当然かしら」 

 彼女は落ち着いた言い様だが高慢ちきな印象を受ける。長い金色の髪に青い瞳。ほっそりとした体つきにどこぞの軍隊のコスチュームを身にまとっている。

(まるで、馬子にも衣裳ってな感じだな……)

 というのが正太郎から見た第一印象である。

 そして、その可愛らしい見た目にしてもそうだが、彼女の発する言葉とのギャップが途轍もなく違和感がある。

「理論立ててって、それはどういうことなんだ? だってキミは……」

「あら、あたしがまだ子供のようにしか見えないって言いたさそうね。でも、その検分は的を射てるわ。さすがヴェルデムンドの背骨折りとまで呼ばれた男ね。感心するわ。そうよ、だってあたし、まだ13歳だもの」

「なっ……13歳!?」

 13歳と言えば、まだ大人の階段を上り始めたばかりの年頃である。その少女と呼ぶしかない小娘一人に、こんな荒くれ共が手も足も出せずにいる。その上、おかしらなどと呼ばれて適確に場を仕切っていること自体に驚きがある。

「あなたのことは以前からよく知っているわ。五年前の戦乱でヴェルデムンドの背骨折りと呼ばれたゲリラ戦の天才。自由気ままな商人上がりの兵士にして、フェイズウォーカー乗り。あたしの研究テーマの中では一、二を争うほどの興味を惹く検体だわ」

「け、検体だって!?」

「そうよ、検体。でも勘違いしないでね。何も人体実験をしたいがために、あなたをここで助けたわけじゃないの。だって、あたしの研究は時の流れるままに自然な成り行きで検体が生き抜いてくれなくちゃ、意味がなくなっちゃうんですもの」

 正太郎は口をあんぐりと開けたまま、彼女の言い様を窺った。

 なにせ、13歳の可愛らしい小娘が、検体だの研究だのと訳の分からないことをベラベラとしゃべりまくるのである。その上、この見た目も泥臭そうな荒くれ者の兵士たちをまとめ上げているという現実。

 自分自身の優れぬ体調と言い、意識を失くす前の烈太郎の暴走と言い、今の正太郎には何が何やらさっぱり訳が分からないといった状況である。

「あら? さすがの背骨折りもお手上げっていったところのようね。でも、それは仕方のないことだわ。だってあなたたちが見ていたあの“可愛らしい生き物”を見てしまったのだから」

「な、なんだと? あの生き物がどうしただって?」

「ふふん、その様子じゃ本当に何も分かっていないって感じね。それじゃあ少し質問するわね。あの毛むくじゃらの可愛らしい生き物と出会って、あなた達はどのぐらい見ていたのかしら?」

「どのぐらい……って、そうだな。まあ一分以内ってところだろうな」

「あらそう。ということは、あたしの統計上では……ざっくり計算しても、一週間は経過しているわね」

「はあっ? い、一週間だって!?」




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