野望の⑫
「そろそろいい加減起きてもらえないだろうか? インターフェーサー」
久しぶりに若くて艶のある女の声で起こされた。だが、地面にへばりつく様な眠気に襲われたままの正太郎には、その声に威圧的な何かを感じざるを得ない。
「う……う……。ね、寝ていろって言ったのはそっちの方だろ? 眠れとか起きろとか、言う事はハッキリとどっちかにしてくれ……」
目を開けるのも億劫になるほど体がだるい。テントを撤収されて剥き出しになったハンモックは、大木の間から差し込む日差しに照らされて、痛いほど光が目に沁みた。
まるでひどい二日酔いの朝を迎えたように気分が冴えない。正太郎は、日の光に背を向けて頭を抱えた。
すると、その仕草を待っていたかのように、
「ねえん、起きてよん。ダーリン」
と、甘い女の声が耳元で囁かれる。それと同時に若い男たちの冷やかしの声が幾重にも
「いいなあ! 憧れのお頭にああやって起こされるなんて!」
「俺もそんな風にして毎朝起こされてみてえもんだぜ!」
「そりゃあ無理だべ! おめえの顔じゃあ、ミドリイノシシのメスに叩き起こされるぐれえが関の山だっぺよ」
「なんじゃワレ! テメエ、もう一遍言って見ろ! テメエの別れた女房なんか、ゾウリムシを三百回ぺったんこにしたみてえなへちゃむくれのくせにしてよ!」
「んだこの! おめえの母ちゃんなんか、出べそが悪化してお多福風邪こじらしたみてえな顔してたじゃねえか!」
「んだと!? やんのかオラ!」
「おう、上等じゃねえか! やってやんべ! 掛かってこいや、この!」
外野で冷やかしていた男二人が急に熱くなって胸倉を掴み合った。それを取り囲む十数名の男たちは皆軍服を着用しており、また二人を煽り立ててその光景を面白がる。
そんな何かと血の気の多い男たちの間に割って入ったのは、先程のお頭と呼ばれた小柄な女である。
「ハイハイ、いつものお楽しみ会はそこまでにしてね。あたしゃ、そんなんだからアンタたちに魅力を感じないんだよ。男はもっと胸を張って堂々としてる方がセクシーだと思うんだがね? どう思う? インターフェーサー」
正直、正太郎には全く興味が無い事案だった。男の魅力がどうのこうのと言われても、全く関心が無い。それよりも、とにかく眠かった。兵士たちのこういったレクリエーションは荒くれ共の間では必ず起きることなので、面倒臭くていちいち口を挟みたくもない。
もっとそれよりも気になることがある。それは、
「こっちから質問していいか? そのインターフェーサーって何だ? 昨日から俺のことをそう呼んでいたようだが?」
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