野望の⑩


 烈太郎の精神モードは、もう尋常ではない状態にあった。それだけに、生身の正太郎にかなりの過負荷が襲う。

「ぐっ……!!」

 いくら彼の身体が鍛え上げられているとは言えど、人の体には限界というものがある。さらに、今日の彼はどこかおかしい。

 普段のように野獣の様な闘志も漲って来なければ、追い詰められた時に垣間見る底力というものも湧き立って来ない。自慢の動体視力を有した目も霞み、思考すらも回らない。

 今まで見せたこともない烈太郎の暴走を制する事すらできない彼は、これが一大事であることを悟った。

「れ、烈っ! おい……やめろ! テメェ、俺の言うことが……聞こえねえ、のか……?」

 震える声を絞り出し正太郎は必死に呼び掛けるが、

「このっ! 逃げるな、このっ!!」

 と、相変わらず列太郎に声は届かない。

 そのうちに正太郎の脳裏に白みがかった光が射して来ると、

「うわあぁー!!」

 と、烈太郎が大声を上げてバランスを崩した。レーザーソードを大振りにし攻撃を仕掛けようとしたところを、相手側が体勢を横滑りに避けてしまったからだ。

 攻撃をかわされた烈太郎は勢い余って前のめりになり、前方にある大きな窪みへと落ち込んだ。

 その時、正太郎の意識は完全に飛んだ。烈風七型の機体は体勢を崩して戦闘不能になったところを、相手側の機体のワイヤーネットによって捕縛され、雁字搦がんじがらめとなった。

「だから大人しくしろと言ったのだ! 人の好意は慎ましくうけるものだ! この愚か者め」

 強制回線を通し、威圧的な女性の声が響く。と同時に、謎のフェイズウォーカーの集団は、烈風七型の引き揚げ作業を行うのであった。



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