戦闘マシンの㉝


 ※※※


「アイ姉ちゃん! もう戻らないと! さすがのオイラでも限界が迫ってる。これ以上炎の中にいると回路がもたないよ。それにアイ姉ちゃんの体だって……」

 烈太郎とアイシャは、あの後、燃え盛る森の中を一時間近くも探索を続けていた。烈太郎、いわば烈風七型の機体は摂氏2000度の環境で30分程度の放置は耐えられるように設計されている。が、烈風七型の計器類を示すモニターには先程から警告表示が点灯し始めている。通常の森林火災程度で2000度近くにまで上がるとは到底思えない。しかし、実際に警告灯が鳴りやまぬ以上、この森の中は異常とも言うべき何かが起きている可能性が高いことを示していた。

「烈太郎さん、ごめんなさい。でも、もう少し、もう少し……」

 アイシャは、モニターを食い入りながら必至に辺りを見回していた。

 あのレールキャノンの狙撃の一瞬の合間、彼女の目に映ったものは見てはならぬ物ばかりである。

 凶獣ヴェロンとの攻防によって散っていった同朋の兵士たち。そして、その兵士たちと共に戦った心を持った戦闘マシン“チャクラマカーン”の残骸が、よりにもよって凶獣ヴェロンと共に不気味に混ざり合った格好で復活を遂げようとしていたのであった。

 それが何であるのか。それが誰の意思によって行われてしまっているのか。そんなことを今のアイシャには知る由もないが、ここまで人々の意思を冒涜した現象は、彼女の考えからすればあり得ない事でしかない。

 その上、もっと予測できない物を彼女は目の当たりにしてしまったのだ。

「お父様がいたのです……」

 アイシャは虚ろな眼差しで言葉を放つ。

「え? アイ姉ちゃん、今なんて言ったの?」

 烈太郎は、彼女が余りにも小声であったために聞き直す。すると、

「お父様があの森の中にいたのです……」

 アイシャは、まだ半信半疑というような言い様で答えた。



 アイシャは、父ゲネック・アルサンダールが、もうこの世に存在していないこと。そして、羽間正太郎と師弟関係であったことを烈太郎に説明した。

 そしてさらに、あのレールキャノンを撃つ直前に、彼女は機械と人間と肉食系植物とが融合した不気味な存在に気付き、その中に父ゲネックの人影を見てしまったことを語った。

「オイラ、ゲネック先生のことならよく知っているよ。でも、アイ姉ちゃん。オイラ馬鹿だから、アイ姉ちゃんの言っていることの意味がよく解かんないや。だって、人間て一回死んだら元に戻らないんだろ? それなのにどういうこと?」

「私にもよく解かりません。でも、あの時……烈太郎さんがレールキャノンを撃とうとした直前に、あの木の中から沢山の変な生き物が出てくるのが見えたんです。……そして、なぜか亡くなったお父様のお姿までもが……」

「だから、反射的に照準を変えたんだね?」

「ええ……。なんだかとても厭な感じがしたものですから。この世界にあってはならないような、そんな感じが……」



 


 

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