戦闘マシンの㉗


 ヴェロンの束縛から解放された正太郎の体は、そのまま一直線に地面へと落下した。がしかし、そこはさすがにヴェルデムンド特有の森の中である。地球で言うところの、超高層ビルにも匹敵する巨木から枯れ落ちた大量の葉が、これでもかというぐらい堆積している。正太郎の体は、まるでトランポリンの上にでも落下したように一旦大きく弾み、そしてまた一枚の大きな枯れ葉に優しく包まれた。彼はおよそ地上五十メートルほどの上空から落下したにもかかわらず、打撲すら負う事はなかったのである。

 そんな彼の様子を窺っていたゲネック・アルサンダールは、足音も立てず目にも止まらぬ速さで正太郎の傍に近寄って来ると、

「羽間正太郎。お主はまだ、この世の全てをその両眼で見ようとしていないのだ」

 と、謎かけの様な言葉を言い放った。

 無論、ゲネックのこのような言い様は今に始まった事ではない。まだ、九死に一生を得たばかりの正太郎は呆気にとられた表情でゲネックを見つめ、

「お、おやっさん……、俺ァ、これでもちゃんと見ているつもりだぜ?」

 と、力の籠らない声で答えた。すると、

「いや、今のお主の目はただの節穴に過ぎぬ。お主はそれだけの力を持っておるのに、この世界のありのままの姿を見ようとしておらぬのだ。それはこの大自然に対しての大反逆行為に匹敵する」

 ゲネックはきっぱりと言いたいことを言うや、間髪入れずにまたベムルの実を近くの木に叩きつけてしまう。

「おやっさん! ちょ、ちょっと待ってくれよ! 今、俺ァ、死にかけたばっかりじゃねえか! 少しぐらい休ましてくれたって……!!」

 正太郎は泣き言を叫ぶが、ゲネックは全く構いない態度でその場を去る。彼の特訓は文字通りスパルタ式なのだ。普段から言葉数こそ少ないが、やることなすこと全てが堂に入っている。どんなに正太郎が弱音を吐こうとも、彼自身がその身をもって理解できるまで実技を続けるのがゲネックのやり方である。それがネイチャーとして生きる術だと体全体で解からせるための最高の手段だという考えなのだ。

 そして、それらのゲネックのあらゆる教えを、正太郎は乾いた大地が水を吸い込むが如く吸収し理解してしまう。それゆえに、ゲネックの特訓にもさらに熱が入るのであった。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る