戦闘マシンの⑲


 その刹那、正太郎は背後にただならぬ威圧感を覚えた。背筋の辺りがゾッとするような感覚だ。

「もうお出でなすったか。ホント容赦ねえ奴だな」

 彼の見立てでは、殺意の出どころは一つや二つではない。ざっと五、六人はいる。

 彼には殺意は感覚で見分けられる。殺意と言うものは、兎にも角にも真っ直ぐな感情なのだ。赤の他人と愛の言葉を交わし合うよりも単純極まりないものであり、純粋で明確な意図を醸し出しているからである。

「こちとら、飛び道具は使い果たしちまった。さて、こいつはどうしたもんかね」

 それは間違いなく、この策謀に気づいてしまった正太郎への刺客が放つ感情に間違いない。さらにその首謀者は、彼が第二防衛線で生き残った事を知るや、すぐさま刺客を差し向けていると考えられる。

 であるならば、初めから彼を邪魔な存在であったと思っていたということだ。彼の類い稀なる感覚を嫌い、彼が生き残ることでデメリットが生じてしまう人物が首謀者ということだ。

 その瞬間正太郎はハッとし、突然バギーを放り出して一目散に走り出す。すると、バギーは唐突に横倒しになり真っ二つに割れる。

「くっ……!!」

 バギーは割れたと同時に燃料に引火し、閃光と同時に地響きを伴った猛爆発を起こす。その風圧は、彼の体を建物の残骸の中へと勢いよく吹き飛ばしてしまう。

 音もせず、火花も散らさず、硝煙の臭いさえもしない。そんな攻撃で彼を闇の底に葬ろうとする刺客。

「こんな攻撃が出来る連中はアイツらしかいねえ。つまりは、これで証明されたようなものだぜ……」

 戯言を言いつつ周囲を見渡す正太郎。瓦礫に背中を叩きつけられ、一瞬気が遠くなりながらも歯を食いしばって必死で正気を保とうとする。

 彼は、腰の辺りに血みどろになった腕を伸ばし、レーザーナイフの出力を解放させた。 

 するとまた、背にした瓦礫の辺りに鋭い金属音がしたかと思いきや、剥き出しになった鉄の管がすぱりと切り裂かれる。

「くっ……!!」

 慌てて立ち上がり、態勢を立て直そうとする束の間、また耳の辺りに蚊の鳴くような高周波が迫って来る。

 正太郎の腕に鳥肌が立っていた。兎に角、四方八方からそのような不快な音波が飛び交うや否や、たちどころに瓦礫の山が細かく刻まれてゆくのである。

「こいつら、とことん俺を弄んでやがるぜ。黄金の円月輪……」



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