戦闘マシンの⑱
烈太郎は、アイシャの頼み事に意表を突かれてしまう。今更あんな場所に戻って何をするというのか?
「いけませんでしょうか?」
「い、いや。ダメじゃないけれど……」
「ならば、お願します」
アイシャは、とことん
あの瞬間、突然狙いを変えたことと言い、自らの寄留地に影響を及ぼすほど森をダメにしてしまったことと言い、自分自身も手を貸してしまったこととは言え、烈太郎の胸の内は不信感が募るばかりである。
「あ、あのさあ、アイ姉ちゃん。オイラ、ちょっとお腹の具合が悪くて……」
「え?」
「い、いや。今のは冗談……。そ、そうだよね、オイラ、ロボットだからお腹が痛くなるわけないもんね」
「え、ええ……」
妙な雰囲気を醸し出す烈太郎に、アイシャはキョトンとした表情で首を傾げる。そして、
「お願いです。これは早くしないといけないことなのです。烈太郎さん、あなたにしか出来ないことなのです」
そこまで懇願されてしまったら、いくら不信感を抱いていたとしても引き受けられずにはいられなくなる。これが美人が醸し出す魔性と言うものなのだろうか。烈太郎は人工知能でありながら、冷や汗が滴る思いがする。
「分かったよ、アイ姉ちゃん。オイラもう破れかぶれだ。どうにでも好きにしていいよ」
「本当ですか!? ありがとうございます。では、早速レールキャノンを撃ち込んだ地点から北北西に二百メートル行った地点に行ってください」
「オ、オーケー。じゃ、じゃあ出発進行!!」
烈太郎は上ずり気味の調子のまま、不安を抱えながら未だに燃え盛る炎の海に飛び込んで行った。アイシャの考えていることは分からない。けれど、今は雰囲気に流されるまま行動するしかない。
正太郎は、ありったけのテクニックを駆使してバギーをかっ飛ばした。しかし、ようやく寄留地の中心地に辿り着いた頃には、もう街は破壊された後だった。
しかも、その街の残骸を見て回ると、ヴェロンが特攻を仕掛けた痕が残っていない。もし、街をヴェロンの大群が襲って破壊の限りを尽くしたのなら、防衛線で見たようにヴェロンが根を生やそうと獲物もろとも地面に頭を突っ込んで小さな蕾を付けているはずである。
「これが俺の思った通りなら、これからが最悪のパターンだな……」
正太郎の表情から、絶望と言う焦りの色が浮き出てくる。
彼の本業は、言わずもがな武器や珍品を扱う商人である。その昔、彼の扱った商品の中には、とても変わった発明品も多く、常人では扱い難い代物も多数存在していた。
その中でも、人類誕生の根幹を指し示す非常に際どい発明品もあった。
「あの発明品の能力が本物だったら、俺たち人類の中で、やけを起こしちまう連中が出て来ちまうのも致し方ねえ。だがよ、まさかテメエがやけを起こすこたあねえだろうが……」
正太郎は、道端に落ちていたデュクの実の発酵酒の酒瓶が割れているのを見て、強く溜息を吐いた。
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